抄録
本稿では,失語がある人の会話を対象とした分析の具体例として,2つの研究を取り上げた。1つは,会話中におけるトラブルを扱ったもので,失語症状から直接引き起こされるもののみならず,いわゆる健常者同士の会話でも生じうる運用上の問題もトラブルに関与している可能性を示した。またもう一方の研究では,会話中の非言語行動に着目した。重度失語症者では,非言語行動がコミュニケーションの代償手段として用いられる一方,比較的軽度の失語症者では,命題的発話を促す手段として非言語行動が生じている可能性がみられた。また,対話者による非言語行動が,失語症者にとってコミュニケーション上のリソースとなりうる点についても述べた。最後に,このような分析方法から臨床へどのような示唆が得られるのか,その可能性についても触れた。