抄録
我々が臨床言語士として自閉症児の言語発達の遅れとその異常性に関わるとき,いかなることに対して関心を払うべきかと問われたならば,何と答えよう.果たして充分に納得のいくような回答をすることができるであろうか.確かに,彼らは言葉をもつもたないに関わらず,コミュニケーションに対する関心の示し方や行為の仕方は我々と異なっており,他の言語発達障害児とも異なっている.我々は,この彼らの一風変わった言語発達の様相や異常性を数えあげ構造化することで満足していないだろうか.それは,対象としての彼らを言語を介して分析することのみに関心が払われ,生活主体者としての彼らを行為を介して見るということに不慣れなためと思われる.このことは,人格発達とか自我形成という視点から検討している報告が見当たらないということからも推測できる.そこで本稿では,症例を通して筆者が考えることを紹介することでST援助のあり方を考察したい.