聴能言語学研究
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10 巻, 1 号
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  • 細谷 文雄
    1993 年10 巻1 号 p. 1-7
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    誤って構音する音や正しく構音できる音を含む音声同定課題において,機能的構音障害児と構音障害のない子供とを比較した.同定課題は,4種類の刺激,/s/-/t/の対立,構音点が異なる子音の対立,構音点と構音様式の異なる対立,母音の対立を語頭に含む2音節の単語で構成されていた.被験児は,13人の/s/に構音の誤りがある小学1年生の機能的構音障害児,20人の構音障害のない小学1年生であった.被験児は,4種類の刺激を提示され,それに対応する絵カードを指さすよう指示された.結果から,機能的構音障害に次の3つの傾向の存在が推測された:(1)音声刺激の同定を全く誤らないもの,(2)構音を誤る音の目標音を同定する際,他の音と混乱するもの,(3)音声刺激の同定の際,注意が瞬間的にそれ,誤って構音する音の目標音以外にも同定を誤るもの.
  • 山本 正志, 山本 博香
    1993 年10 巻1 号 p. 8-15
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    伝達機能がどのように発達するかを考察する目的で,1健常幼児における伝達機能の発達について,身ぶりの分化を手がかりに分析した.
    対象児が0歳6ヵ月から1歳6ヵ月までの間,日誌法により10の身ぶりと語彙の発達について記録した.
    その結果,指さし・首ふり・提示・手ふりは初出が早かったが最初は非伝達的な使用で,段階を追って伝達的に使われるようになった.挙手・首肯・おじぎ・腕のべは初出が遅れたが,最初から伝達的に使用された.手のべ・手招きは観察されなかった.語彙獲得は早かったが,それ以前にいくつかの身ぶりの伝達的使用が始まっていた.これらより,語彙の獲得や身ぶりの伝達的使用が可能になる前に,身ぶりを非伝達的に使い,身ぶりをすること自体を楽しむ段階があると考えた.そして,その段階が伝達機能の基礎を形づくる上で重要であると考察した.
  • 神山 政恵, 吉岡 博英
    1993 年10 巻1 号 p. 16-25
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    全国の公立学校難聴・言語障害学級の実態と担当教師のいわゆる『聴能言語士(STと略す)』の資格への意識を調査する目的で約3分の1に当たる503学級を任意に抽出し,アンケート調査を実施した.その結果は,次の通りである.
    1) 回収率は61%であった.
    2) 担当教官は教師歴10年以上のベテランが任命されることが多く,継続の意思を持っている者が多かったが,教室の運営面と言語障害児の指導面の両者の悩みを抱えつつ訓練を行っている様子がうかがえた.
    3) 一人の担当者が1日に4~6人程度の言語障害児を訓練し,1~2人の職場が多かった.
    4) 担当者の多くは小学校普通免許状のみを所有し,言語障害に関する専門教育を受けたものは少なく,ほぼ全員が専門教育の研修の必要性を認めていた.
    5) 担当者の大多数が医療STの資格の必要性を認めていたが,教師にも同様の資格が必要かについては,約半数が必要と回答していた.
  • 仙田 周作, 染谷 利一, 亀井 真由美, 松永 しのぶ, 太田 昌孝
    1993 年10 巻1 号 p. 27-34
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    自閉症は,行動の特徴で定義された症候群であり,人生の早い時期に起こってくる特有な発達障害である.自閉症の示すさまざまな症状の背後には,シンボル表象機能の発達に重篤な障害があることから,自閉症の治療教育においては,シンボル表象機能の発達に焦点をあてた評価が重要である.本論では,第一に,自閉症の有意味語の有無とシンボル表象機能との関係を考察した.第二に太田のStage評価に基づく自閉症の治療教育(CDT)について,特に言葉の発達を促す指導の課題の概略を述べた.
    結果:(1)62例の自閉症児を有意味語の有無で分けた.47%の症例に有意味語は認められなかった.(2)有意味語の有無は,精神発達とシンボル表象機能の発達に強く関係していた.(3)有意味語の有無や言語表出の程度は,太田のStage評価とよく相関していた.しかし,有意味語無しでは,StageはIからIII-1まで,有意味語有りでは,Stage IIからStage III-2までに分布していた.(4)表出言語の評価に比べ太田のStage評価はより詳細にシンボル表象機能の発達が評価でき有用である.
  • 角張 憲正
    1993 年10 巻1 号 p. 35-39
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    自閉症児は,話しことばをもっていなかったり,エコラリアをもっているという特徴がある.それゆえ,社会的相互交渉の場において,コミュニケーションの道具としてことばを使うことに,限界がみられる.
    応用行動分析では,自発的かつ適切な話しことばの開発を試みてきた.その成果は著しいものがあり,ことばを教えることの困難性を減少させる手続きをも,提示してきた.しかし,限られた訓練場面で学習したことばは,日常生活場面で必ずしも有効ではなかったきらいがある.近年になって,注目されているのは,現実の生活場面で実際に必要な機能的なことばを教える方法である.自閉児個人の行動の文脈にそった,言語を含む治療計画が要求されている.
  • 中島 雅史
    1993 年10 巻1 号 p. 40-48
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    我々が臨床言語士として自閉症児の言語発達の遅れとその異常性に関わるとき,いかなることに対して関心を払うべきかと問われたならば,何と答えよう.果たして充分に納得のいくような回答をすることができるであろうか.確かに,彼らは言葉をもつもたないに関わらず,コミュニケーションに対する関心の示し方や行為の仕方は我々と異なっており,他の言語発達障害児とも異なっている.我々は,この彼らの一風変わった言語発達の様相や異常性を数えあげ構造化することで満足していないだろうか.それは,対象としての彼らを言語を介して分析することのみに関心が払われ,生活主体者としての彼らを行為を介して見るということに不慣れなためと思われる.このことは,人格発達とか自我形成という視点から検討している報告が見当たらないということからも推測できる.そこで本稿では,症例を通して筆者が考えることを紹介することでST援助のあり方を考察したい.
  • 高須賀 直人
    1993 年10 巻1 号 p. 49-55
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    年少自閉児の言語臨床の根幹であるコミュニケーションの獲得と関係するいくつかの事柄について検討した.
    (1) 活動の多様化.物への関わりの増大.
    (2) コミュニケーションを広く考える必要.
    (3) 理解,働きかけの受信の重要性.
    (4) 記号-指示内容関係の発達への配慮.
    (5) 母子関係に望まれること.
  • 田川 皓一
    1993 年10 巻1 号 p. 57-65
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    失語症の画像診断では,(1)古典的な言語領野を理解し,その部位の障害を明らかにすること,(2)失語症の原因疾患を診断し,その病態を知ること,(3)非失語性の言語障害を引き起こす可能性のある部位での障害の有無を検討すること,などが重要である.
    大脳病変の形態学的診断には,X線CTやMRIが有用であり,機能的診断には,脳血流代謝の測定が実施されている.脳の障害は常に形態学的に診断できる非可逆的な障害ばかりとは限らない.また,失語症を生じた疾患の病態を理解しておくことも重要である.脳血管障害では脳梗塞と脳出血の鑑別が必要であり,脳梗塞であれば,脳血栓と脳塞栓を区別したい.なお,脳血管障害の病態生理は急性期から慢性期にかけて劇的に変化することもある.痴呆性疾患では脳血管性痴呆と老年痴呆を鑑別したい.非失語性の言語障害としては構音障害が重要であり,錐体路の解剖学的局在は常に理解しておきたい.
  • 遠藤 邦彦
    1993 年10 巻1 号 p. 66-78
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    左頭頂葉急性硬膜外血腫除去術後,複数の感覚系にまたがる感覚限局性失語を生じた1症例,および左被殻出血吸引術後,失語症と意味記憶障害を生じた1症例をもとに,物品呼称の神経機構を検討した.感覚連合野で分析された物品の形態,素材等の情報が下側頭回の意味記憶と照合され,それが何であるか認知され,意味記憶からの情報は語彙系を通して音韻像に変換され,左上側頭回に音韻像が把持され,その音を構音するための運動記憶が左下頭頂小葉から呼び出され,それに照らし合わせて左運動皮質が構音器官に指令を送ると考えられる.この情報処理過程の損傷部位に対応して物品の失認(感覚連合野と意味記憶系の離断),感覚限局性失語(認知系と言語系の離断),意味記憶障害(意味記憶自体の損傷),失語症(語彙・音韻系の障害)による呼称障害を生じると考えられた.これらの病態は病巣の広がりに対応して合併して生じうる.
  • 鈴木 淳
    1993 年10 巻1 号 p. 79-85
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    脳損傷による言語障害者が抱える問題に関して,これまで言語治療士が行ってきた臨床評価は,主に言語学的および神経心理学的観察にもとづいている.しかし,患者の言語病理を理解し,治療的な関わりを試みる根拠としては不十分だと考えられる.すなわち,〈意味〉の共有が図りにくい患者の病態と心理を了解するためには,治療士がもつ考え方の枠組をシフトさせることが必要である.
    そこで,筆者は,まず記号学的な観点を導入し,言語の〈差異化〉作用を認識することが,患者の言語病理を理解する上で有用であることを論じた.次に,治療関係・治療構造が言語臨床の内容・経過に直接影響を及ぼすことを指摘し,患者-治療士関係における治療士の〈役割〉の取り方について論じた.
  • 古賀 良彦
    1993 年10 巻1 号 p. 86-93
    発行日: 1993/04/30
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    精神分裂病では多彩な精神症状がみられるが,その中で,思考障害に関してはすでに多くの報告があるのに対し,言語の障害についての研究はあまり活発に行われていない.精神分裂病の言語に関するこれまでの研究をみると以下の4つに大別できる.
    (1)言語の研究により,思考障害の解明をめざすもの(Maher, Andreasen, Hoffman).この場合,言語は思考をうつしだす鏡として考えられる.(2)言葉による情報の伝達の障害についての研究(Cohen, Kantorowitz, Rochester).(3)言語学者による精神分裂病患者の談話の詳細な分析(Chaika, Morice).(4)精神分裂病の言語と失語症との比較を行う研究(Gerson,神山,大平).
    ヒトにのみ存在する精神分裂病の研究にとって,ヒトで特に発達した機能である言語は有用な研究手段となるはずであり,今後,言語についての研究が発展することにより精神分裂病症状の構造や認知障害の様相が明らかにされることが期待される.
  • 1993 年10 巻1 号 p. 103
    発行日: 1993年
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
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