2009 年 34 巻 1 号 p. 61-66
幽門下リンパ節転移を伴った多発胃粘膜癌の興味ある1例を経験したので報告する.症例は57歳,男性.胃潰瘍に対する内服治療と経過観察を他院で11年間受けていた.スクリーニングで施行した腹部超音波検査で膵頭部前面(幽門下)に径6cm大のmass lesionを認めたため,当院紹介入院となった.胃内視鏡検査で胃角部に0-IIa型(病変A),幽門前庭部に0-Is型(病変B)の胃癌を認めた.開腹所見では径6cm大に腫大したリンパ節転移を認め迅速病理診断で低分化腺癌の診断であり,幽門側胃切除術(D1+β)を行った.組織学的には術前診断されていた2箇所の病変(病変A:25mm,pap,病変B:6mm,tub1+por1)のほかに,胃角部にも0-IIa型で7mm大のtub1(病変C)を認め,全病変が粘膜癌であった.腫大した幽門下リンパ節のみに低分化腺癌の転移を認め,組織型から推察すると0-Is型病変(病変B)からの転移が疑われた.術後1年10カ月経過した現在,再発の兆候は認めない.