2009 年 34 巻 1 号 p. 72-76
十二指腸球部癌は比較的稀な疾患である.幽門狭窄を生じる頻度が低いため,十二指腸潰瘍との鑑別を要することは少ない.今回,十二指腸潰瘍の長期経過観察中に幽門狭窄をきたした十二指腸球部癌の1例を経験したので報告する.症例は62歳,男性.20歳代から十二指腸潰瘍に対し,内科的治療を行っていたが,軽快・再燃を繰り返していた.3年前の潰瘍病変の生検では悪性所見を認めなかった.嘔吐を主訴に当院内科を受診したところ,幽門狭窄と診断され入院した.上部消化管内視鏡検査で幽門狭窄と前庭部の変形を認めた.盲目的に行った球部の生検ではびらんと再生上皮を認めるのみであった.難治性十二指腸潰瘍による幽門狭窄の疑いで開腹したが,術中迅速組織診断で十二指腸断端に腺癌が認められたため,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後1年2カ月経過した現在,明らかな再発を認めず,健存である.