抄録
家族性大腸腺腫症に合併した多発甲状腺癌の1例について,遺伝子検査の結果とともに報告する.症例は38歳,女性.2年前に家族性大腸腺腫症,横行結腸癌,多発肝転移,腹膜播腫,甲状腺癌と診断され横行結腸癌(Stage Ⅳ)に対し,mFOLFOX6療法を受けたところ,多発肝転移が完全消失したため,結腸全摘・回腸直腸吻合術を施行した.結腸切除後2年後に甲状腺癌(左葉に2か所,右葉に1か所)に対し,甲状腺全摘術を施行した.組織学的にはいずれも乳頭癌であり,左葉の2か所はcribriform-morula variant of papillary thyroid carcinoma(CMPTC)であった.APC遺伝子検査では,生殖細胞系列変異としてcodon 1,483のシトシンの欠失,甲状腺癌の体細胞変異としてcodon 295のグアニンの欠失を認め,いずれも短縮したAPC蛋白を作る変異であった.この結果は,本症例の甲状腺癌がAPC遺伝子の両アリルの異常により発生したことを示唆した.患者は甲状腺手術後2年(家族性大腸腺腫症・横行結腸癌の診断から5年2カ月)現在,いずれの再発も認めていない.