2004 年 29 巻 1 号 p. 85-88
症例は48歳の男性。発熱, 肛門周囲の腫脹疼痛および少量の粘液便を主訴に来院し, 肛門周囲膿瘍と診断され切開排膿を行った。瘻孔造影で肛門周囲膿瘍の切開孔とS状結腸に交通を認め, 注腸造影でS状結腸に多数の憩室が存在した。このため, S状結腸憩室が原因となった直腸肛門周囲膿瘍と診断した。なお, 痔瘻は認められなかった。大腸憩室症の合併症としては, 出血, 憩室炎およびこれに関連した穿孔, 局所の膿瘍形成, 瘻孔形成, 狭窄などの合併症をきたすとされているが, われわれが検索した限り, 直腸肛門周囲膿瘍の形成例は報告がなく, きわめて稀な症例であると考えられた。