2012 年 41 巻 1 号 p. 1-7
近年データベースを利用した臨床試験が推進されている.本研究では,日本成人心臓血管外科手術データベース(JACVSD)のデータを治験における臨床試験のヒストリカルコントロール群として用いた事例から,データベースを臨床試験で用いる場合に必要なプロセス,および,それによるデータ収集の効率化について検討し,解析で使用する変数に対して利用可能だったJACVSDの既存データ,データの欠損や不整合に関する問い合わせについて分析した.JACVSDをヒストリカルコントロールとして用いる際には,通常の臨床試験データの収集プロセスに加えて,JACVSDの既存データの利用の程度や治験群とのデータ統合ルールを策定した.対象症例は,JACVSD登録症例から既存データを利用して,事前に抽出しておいた.解析で使用した76変数のうち63.2%はJACVSDの既存データが使用可能であった.追加で収集したのは主に対象疾患の臨床所見に関する情報であった.データの欠損や不整合の割合は低かった.JACVSD登録症例やJACVSDの既存データをヒストリカルコントロール群として利用することにより,データ収集の効率化を図ることができた.また,JACVSD登録症例から臨床試験の対象者を抽出することで,症例選択に伴う医療機関の負担軽減や対象症例の選択バイアスを防ぐことが可能となった.