抄録
近年,高齢者大動脈弁手術の増加に伴い,これまで以上に早期離床が望まれる.当施設では術後合併症の発症回避に努めることを目的に,2011年1月から待機的に予定された単独大動脈弁疾患に対して右傍胸骨小切開による大動脈弁置換術(MICS AVR)を導入した.MICS AVRの適応を満たした症例は32例(男性10例,女性22例),平均年齢は73.4±7.0歳であった.術前診断は大動脈弁狭窄症23例,大動脈弁閉鎖不全症6例,混合病変2例,バルサルバ動脈瘤を伴う大動脈弁閉鎖不全症1例であった.平均大動脈遮断時間99±22分,体外循環時間140±34分,手術時間250±49分,人工呼吸器時間7.5±4.7時間,ICU滞在日数1.2±0.5日,入院日数10.3±2.2日であった.1例にS-Tジャンクションの拡大,1例に弁輪拡大を施行した.MICS AVRから胸骨横切開または正中切開法へ切り替えた症例,出血再開胸症例,胸骨骨髄炎は認めなかった.成績は安定しており,適応を満たした単独大動脈弁手術の第一選択術式となっている.横皮膚切開による傍胸骨小切開法は美容的にも優れており,胸骨骨髄炎の発症も抑えることが期待され,また術後疼痛も少なく早期離床が必要とされる高齢者に適応が広がる術式であると考えている.MICS用体外循環材料や手術器具を用いた手術により良好な結果を得ているのでその術式,工夫について報告する.