抄録
症例は60歳男性.腹部大動脈瘤のYグラフト人工血管置換術の約2カ月後に吐血で救急搬送された.緊急胃内視鏡にて,十二指腸にリンパ腫の瘢痕病変を認め入院となった.入院10日後出血性ショックで心肺停止となり,腹部造影CTにて大動脈から十二指腸への出血を認め,人工血管十二指腸瘻と診断され,蘇生後大動脈閉塞バルンを挿入し,緊急手術となった.開腹後,再度心肺停止となり,大動脈閉塞バルンの効果がなく,左前方開胸で下行大動脈を遮断した.後腹膜に血腫を認め,S状結腸と人工血管の脚との瘻孔も術中に発覚した.人工血管を除去し,腹部大動脈中枢側断端と両側総腸骨動脈の中枢断端を閉鎖した.十二指腸瘻孔部を直接縫合閉鎖し,結腸を切除後,人工肛門を造設した.後腹膜に大網を充填した.最後に左腋窩-両側大腿動脈非解剖学的バイパス術を施行した.術後左下腿の虚血を認め,コンパートメント症候群に陥り,減張切開を施行した.その後同部位の感染が制御不能となり,左下腿切断に至った.術後管理に難渋したが第343病日義肢にて歩行で退院可能となった.周術期に心停止に陥った腹部大動脈人工血管十二指腸瘻および結腸瘻の2カ所の腸管瘻の1手術救命例を経験したので報告する.