日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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43 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 木村 玄, 秦 光賢, 塩野 元美, 関野 久邦
    2014 年43 巻4 号 p. 163-169
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    [背景・目的]開心術後早期のプロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与は,ストレス性消化管合併症の予防に有効であるが,PPIは抗凝固療法として用いるワルファリン(WF)と併用した場合,チトクロームP-450(CYP)2C19による代謝過程を共有するため,INR(International Normalizing Ratio)が急上昇し出血合併症のリスクとなる.[対象]CYP2C19の遺伝子亜型は代謝の早いEM(Extensive Metabolizer)型,遅いPM(Poor Metabolizer)型,中間のIM(Intermediate Metabolizer)型の3種が存在するが,WF,PPIの競合作用における遺伝子の関与については不明である.[結果]われわれは,PPIの種類とCYP2C19遺伝子亜型による薬剤相互作用への影響に関して研究を行った.PPIはその種類によってOmeprazole,Lansoprazole,Rabeprazoleの順にCYP2C19に対する代謝依存度が強く,Rabeprazoleにおいては主に非酵素的に代謝される.日本人では5人に1人がCYP2C19におけるPMであるとされ,他民族に比べ出血合併症をきたしやすいといわれている.今回,開心術後のWarfarinとPPIの併用について,前向き観察研究にてその競合作用とCYP2C19の遺伝子型について検討を行った.78例の患者から遺伝子解析を行い,VKORC1(Vitamin K epoxide reductase complex subunit 1)遺伝子型がT/T変異,CYP2C9遺伝子型が 1/1で統一されたRabeprazole内服群(RB群)30例,Lansoprazole内服群(LP群)30例で比較検討を行った.[結果]Lansoprazole+Warfarin併用症例では,TTR(Time in Therapeutic Range)の低下が有意に見られ,その原因として有意差はなかったもののCYP2C19遺伝子型が関与している可能性が考えられた.また出血リスクとして年齢があげられたことより,とくに今後高齢化社会においては,Warfarinと併用するPPIとしてRabeprazoleが最も安全で有効であると考えられた.
  • 権 重好, 山田 靖之, 柴崎 郁子, 桒田 俊之, 堀 貴行, 土屋 豪, 関 雅浩, 桐谷 ゆり子, 加藤 昂, 福田 宏嗣
    2014 年43 巻4 号 p. 170-176
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    [背景]高齢化社会に伴い,心臓大血管手術患者の適応年齢が拡大している.[対象]今回われわれは85歳以上の超高齢者に対する心臓大血管手術を経験し,治療方針の妥当性を検討した.2008年6月から2012年12月までに当センターで施行した心臓大血管手術1,026例中,85歳以上の39例(3.8%)を対象とし,待機手術症例と緊急手術症例を比較検討した.また,84歳以下の対象群と術後経過を比較検討した.平均年齢86.3±1.3歳(85~90歳),男女比10:29,緊急症例19例(46.2%).施行手術は弓部全置換術4例,上行置換術4例,下行置換術1例,大動脈弁置換術(AVR)13例,僧帽弁置換術1例,僧帽弁形成術2例,冠動脈バイパス術(CABG)9例,AVR+CABG 4例,腫瘍摘出術1例であった.手術時間は305.8±113.8分,人工心肺時間は155.6±64.7分,平均ICU滞在日数3.82日,術後平均在院日数41.3日であった.[結果]術後30日死亡は1例(2.6%),入院死亡は6例(12.8%)であった.手術関連死亡は胸部大動脈瘤破裂に対する下行置換術の出血死,AVR後の非閉塞性腸間膜動脈虚血(NOMI)による消化管穿孔の2症例であり,その他は経過中に発症した急性心筋梗塞,肺がん化学療法中に急性大動脈解離を発症し術後脳転移による脳梗塞,胆のう炎による消化管穿孔,タコつぼ型心筋症既往の心不全により失った.緊急手術症例群の術後挿管時間(89.9時間vs. 8.2時間,p=0.006),ICU滞在期間(6.74日vs. 1.05日,p=0.002),術後入院日数(58.9日vs. 27.5日,p=0.049)は待機手術症例群と比べ有意に延長した.高齢者の待機手術症例では,84歳以下の対象者群と比べ,在院死亡率(2.6% vs. 5.0%,p=0.52),術後在院日数(26.7日vs. 27.5日,p=0.54)などの術後経過に有意な差は認めなかった.高齢者の緊急手術症例は,84歳以下の対象群と比べ術後在院日数が有意に延長し(58.9日vs. 39.1日,p=0.03),在院死亡率も高かった(26.3% vs. 10.5%,p=0.004).85歳以上超高齢者の心臓大血管手術は手術成績,術後経過ともにおおむね良好であり,とくに待機手術症例においては若年者と同等な手術成績が見込める.[結語]高齢を理由に手術不適応と判断するのは早計であり,患者のfrailtyや精神状態,病態の深刻性,患者家族の意思を考慮したうえで手術適応を判断すべきである.
症例報告
  • 曽川 正和, 福田 卓也, 諸 久永
    2014 年43 巻4 号 p. 177-180
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    冠動脈-気管支動脈交通によるcoronary steal現象で右冠動脈支配領域に虚血を認め,大動脈弁閉鎖不全症および僧帽弁閉鎖不全症を合併した症例に対し,手術を行ったので報告する.症例は76歳,女性.8年前より慢性心不全として,薬物治療を受けていた.労作時の息切れが増悪してきたため精査を行ったところ,上記診断され,冠動脈-気管支動脈交通結紮切離術および,生体弁CEP 23A Magnaによる大動脈弁置換術,僧帽弁形成術を施行した.術直後に冠動脈-気管支動脈交通が原因と思われる気道出血を認めたが,自然軽快した.その他の術後経過は良好であった.
  • 坂本 滋, 坂本 大輔
    2014 年43 巻4 号 p. 181-184
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.1980年にDeBakey IIIb大動脈解離の診断でCooley double velour knitted Dacron(CDVKD)を使用した胸部下行大動脈人工血管置換術を施行された.2012年1月頃より背部痛と血痰を認めるようになり,当科を紹介された.造影CTでは32年前に施行された人工血管径が最大80 mm以上に拡大した人工血管瘤と診断した.背部痛と血痰が持続するため緊急手術を考慮した.治療戦略としては骨盤内と横隔膜上部の血管の屈曲蛇行が強いこと,瘤の最大径が80 mm以上と大きいこと,鎖骨下動脈起始部からlanding zoneとなる動脈の石灰化が強いことなどからthoracic endovascular repair(TEVAR)ではエンドリークやmigrationの合併症を起すことが危惧されたため胸骨正中切開で,体外循環を併用した弓部大動脈人工血管置換術を選択した.術後は経過良好で,術後5週で退院した.人工血管破綻による人工血管瘤の報告は少ないが,とくに術後,長期間経過しているCDVKDを使用した人工血管置換術症例は,人工血管の劣化による人工血管瘤が発生する可能性があり,注意深い術後の経過観察を行う必要がある.
  • 武居 祐紀, 松本 雅彦, 木村 光裕, 神谷 健太郎, 葛 仁猛, 榊原 賢士, 加賀 重亜喜, 鈴木 章司
    2014 年43 巻4 号 p. 185-190
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は80歳男性.ゲートボール中に両下肢脱力,疼痛が出現したため近医を受診し,経過観察された.翌日,症状が増悪し,前医を受診したところ,両側大腿動脈拍動が触知できず,下肢急性動脈閉塞が疑われ造影CTを撮影された.CTでは最大短径37 mm大の腹部大動脈瘤を認め,瘤内は完全閉塞し,側副血行路にて両側内外腸骨動脈末梢が造影されていた.腹部大動脈瘤急性血栓閉塞と診断され当院へ緊急搬送となった.来院時,下肢所見はBalas分類III度,TASC分類IIb,Rutherford分類IIbであった.腹部症状は認めず,下肢へは側副血行で血流の確認ができたため,血行再建の方針とした.術式は,認知症,高齢を考慮し非解剖学的血行再建術(右腋窩動脈-両側大腿動脈バイパス)を施行した.術後,再灌流障害を来すことなく経過し,第16病日独歩退院となった.腹部大動脈瘤急性閉塞は比較的稀な疾患である.発症時,虚血範囲が広範となるため,血行再建術後に重篤な再灌流障害を来すことが多く,予後不良の疾患である.今回,救命しえた1例を経験したので報告する.
  • 廣本 敦之, 本田 二郎
    2014 年43 巻4 号 p. 191-194
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    冠動脈仮性瘤は稀な病態であり,おもに経皮的カテーテル冠形成術や冠動脈バイパス後に生じることが報告されているほか,全身性血管炎,鈍的外傷に伴うものも報告されている.今回われわれは明らかな成因の不明な偶発的に診断された右冠動脈仮性瘤の1例を経験したので報告する.症例は60歳男性で十二指腸潰瘍出血の診断にて緊急入院となり,上部消化管内視鏡にて胃穹隆部に粘膜隆起を認めたため造影CTにて精査を行い心臓下壁の冠動脈瘤が示唆された.冠動脈造影および冠動脈CTを行ったところ右冠動脈末梢に最大横径43 mmの動脈瘤を認め,また同時に左前下行枝の90%狭窄を認め,同時手術の方針とした.手術は心停止下に瘤を切開し流入孔を確認し閉鎖,また左前下行枝へバイパスを行った.病理検査では仮性瘤として矛盾しない所見であった.明らかな成因はいまだ不明であるが,30年前に脾臓摘出を必要としたほどの外傷を受傷した既往があり,鈍的外傷に伴い形成された可能性が最も考えられた.
  • 中尾 充貴, 森田 紀代造, 黄 義浩, 阿部 貴行, 橋本 和弘
    2014 年43 巻4 号 p. 195-199
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は28歳女性.8歳のときにWPW症候群を指摘されたが,自覚症状なく経過していた.20歳ころより出現した上室性頻拍を契機に,26歳時にEbstein病と診断された.28歳時に当院にてWPW症候群に対するカテーテルアブレーションを施行し頻拍発作は消失したが,三尖弁閉鎖不全に伴う右心不全遷延にて三尖弁形成術の手術適応となった.心エコー上,三尖弁中隔尖・後尖の高度の落ち込みと右房化右室を認め,Carpentier type Bと診断した.前尖が大きくかつ可動性が良好であったため,Hetzer法による三尖弁形成の方針とした.プレジェット付3-0モノフィラメントで前尖と後尖の交連部近傍の弁輪から冠静脈洞近傍の弁輪にU字縫合を行い前尖後尖弁輪の接合を試みたところ,三尖弁逆流の制御が可能であったため,さらにここより後方の弁輪を縫合閉鎖し,ほぼ弁逆流は消失した.形成後の弁輪径は27 mm,術後三尖弁逆流は極軽度であった.術後経過は良好で,術後のレントゲンでは心胸郭比は48%と心不全徴候を認めず,体重も43 kgから41 kgに減少した.Hetzer法は右房化右室を縫縮せずに,最も可動性のある弁尖(多くの症例で前尖)をmonocuspとして使用し,leaflet-to-septumの弁接合メカニズムにより本来の弁輪レベルで機能再建することで弁逆流を可能にする簡便かつ再現性のある三尖弁形成術であり,またテストスティッチによってその有効性の確認が可能であることから成人Ebstein病において有用な術式であると考えられた.
  • 三原 茜, 水野 友裕, 荒井 裕国
    2014 年43 巻4 号 p. 200-204
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    重度漏斗胸に合併した心疾患に対する心臓手術と胸郭形成術の一期的手術は,小児例や若年Marfan症候群においては報告例があるが,高齢,非Marfan症候群では非常に稀である.今回われわれは,高齢,非Marfan症例で心臓手術のさいに重度漏斗胸のため胸郭形成術を同時に行わなければならない症例を経験したので報告する.症例は69歳,男性.主訴は夜間起座呼吸.重症僧帽弁閉鎖不全症による急性心不全と診断された.心エコー検査で左房内腫瘍を指摘された.冠動脈造影で左前下行枝,対角枝,高位側壁枝に有意狭窄を認めた.重度の漏斗胸のため,胸骨-脊椎間距離は1 cmと狭く,心臓は胸郭の左下方に大きく偏位し,通常の胸骨正中切開ではアプローチ不可能であったため,同時に胸郭形成術を施行することとした.心臓の変位のため心臓は拍動下での露出は困難であり,心停止下に3枝冠動脈バイパス術,僧帽弁置換術,左房内腫瘍摘出術を施行した.心臓手術終了後に胸郭形成術を施行し,手術を終了した.手術経過は良好であった.成人,非Marfan症例での心臓手術と漏斗胸に対する胸郭形成術の一期的手術は稀であり報告した.
  • 福村 好晃, 松枝 崇, 元木 達夫, 来島 敦史, 大谷 享史
    2014 年43 巻4 号 p. 205-208
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    大動脈弁閉鎖不全症を合併する大動脈弁輪拡張症に対し,Prima Plusステントレス生体弁をFull root法で使用し大動脈基部置換術を施行したが,移植65カ月後にブタ大動脈壁破裂による仮性動脈瘤を形成し,再手術を要した症例を経験した.症例は63歳,女性.術後問題なく経過していたが,心不全症状が急速に進行した.3D-CTで大動脈基部に仮性動脈瘤の発生を認め,心エコー検査で重度の僧帽弁閉鎖不全症を認めた.再手術時に,Prima Plus生体弁の無Valsalva洞壁に約2 cmの横方向の亀裂が存在しており,仮性動脈瘤の原因となっていた.また,僧帽弁は両弁尖の肥厚短縮を認めた.機械弁を使用した再大動脈基部置換術と僧帽弁置換術を施行し,術後は良好に経過した.ブタ大動脈壁の病理組織で,宿主の単核細胞・単球およびマクロファージの浸潤が認められ,破裂の原因として免疫反応の関与が疑われた.ステントレス生体弁は血行動態的に優れた人工弁であるが,full root法で使用した場合の合併症として,ブタValsalva洞の拡大と破裂の報告が散見される.心エコー検査やCTによる綿密な経過観察が必要である.
  • 糸永 竜也, 中井 真尚, 島本 光臣, 山崎 文郎, 岡田 達治, 野村 亮太, 寺井 恭彦, 宮野 雄太, 村田 由祐
    2014 年43 巻4 号 p. 209-212
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は24歳女性,呼吸困難,起座呼吸を主訴に前医を受診し,心臓エコー検査にて左房内腫瘤を認めたため当院を紹介されて受診した.左房内を占拠する腫瘤による心不全と診断し,緊急左房内腫瘤切除,自己心膜を用いた左房・心房中隔再建を行った.病理検査にて未分化多形性肉腫と診断された.原発性心臓悪性腫瘍は予後不良であるが,手術による完全切除と放射線・化学療法により再発兆候なく術後1年を経過した1例を経験したので報告する.
  • 金光 尚樹, 山中 一朗, 仁科 健, 廣瀬 圭一, 水野 明宏, 中塚 大介, 堀 裕貴, 安水 大介, 矢田 匡
    2014 年43 巻4 号 p. 213-217
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.呼吸困難を主訴に前医を受診し,うっ血性心不全として入院治療を受けた.僧帽弁後尖逸脱による高度の弁逆流が原因と診断され紹介された.低侵襲心臓手術(Minimally invasive cardiac surgery,以下MICSと略)として右小開胸アプローチ下に僧帽弁形成術を施行した.人工心肺離脱後に急激に右気管支から黄色の泡沫状分泌物が流出してきた.再膨張性肺水腫と診断しdifferential ventilation,ステロイドパルス治療を行ったが低酸素血症が進行しさらに左室機能低下に伴う循環不全を呈した.術当日に大動脈内バルーンポンピング(Intra-aortic balloon pumpig,以下IABP)と経皮的心肺補助(Percutaneous Cardiopulmonary Support,以下PCPS)を導入した.5日目にPCPSを離脱し独歩退院可能であった.右開胸下MICSに伴う再膨張性肺水腫は稀ではあるが致死的となりうる合併症である.
  • 渡辺 芳樹, 高野 弘志, 堀口 敬, 吉龍 正雄, 鳥飼 慶, 川本 誠一, 山川 美帆, 岩崎 祐介
    2014 年43 巻4 号 p. 218-223
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    心臓手術後の腸管虚血は稀ではあるが,致死的な合併症である.今回われわれは心臓手術後の虚血性大腸炎に対し,ステントを用いた腹腔動脈の狭窄解除が著効した2例を経験した.症例1は65歳の男性で,心拍動下冠動脈バイパス術の術中に心筋梗塞が生じ低心拍出状態に陥った.術後19日目頃より腹痛および下血を認め,大腸ファイバー検査でS状結腸から下行結腸の虚血性変化を認めた.腹部血管造影のうえ,腹腔動脈の狭窄に対しステントによる拡張術を施行し,その後腹痛,下血などの症状は改善した.症例2は60歳の女性,心筋梗塞後左室瘤に対し,左室形成術を施行したが,術後9日目より食後に腹痛を認め,術後33日目に大量の下血が生じた.大腸ファイバー検査で下行直腸に虚血性変化を認め,症例1と同様に腹腔動脈の狭窄に対してステントによる拡張術を行った.その後,腹痛などの症状は軽快した.腸管虚血に対する治療として,従来開腹による血行再建術が施行されてきたが,近年,ステント留置を含めた血管内治療が行われており,今回のような心臓手術後の全身状態が不安定な患者に対して,より低侵襲な血管内治療は有効であると考えられた.
  • 市原 利彦, 佐々木 通雄, 阿部 知伸
    2014 年43 巻4 号 p. 224-229
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は60歳男性.腹部大動脈瘤のYグラフト人工血管置換術の約2カ月後に吐血で救急搬送された.緊急胃内視鏡にて,十二指腸にリンパ腫の瘢痕病変を認め入院となった.入院10日後出血性ショックで心肺停止となり,腹部造影CTにて大動脈から十二指腸への出血を認め,人工血管十二指腸瘻と診断され,蘇生後大動脈閉塞バルンを挿入し,緊急手術となった.開腹後,再度心肺停止となり,大動脈閉塞バルンの効果がなく,左前方開胸で下行大動脈を遮断した.後腹膜に血腫を認め,S状結腸と人工血管の脚との瘻孔も術中に発覚した.人工血管を除去し,腹部大動脈中枢側断端と両側総腸骨動脈の中枢断端を閉鎖した.十二指腸瘻孔部を直接縫合閉鎖し,結腸を切除後,人工肛門を造設した.後腹膜に大網を充填した.最後に左腋窩-両側大腿動脈非解剖学的バイパス術を施行した.術後左下腿の虚血を認め,コンパートメント症候群に陥り,減張切開を施行した.その後同部位の感染が制御不能となり,左下腿切断に至った.術後管理に難渋したが第343病日義肢にて歩行で退院可能となった.周術期に心停止に陥った腹部大動脈人工血管十二指腸瘻および結腸瘻の2カ所の腸管瘻の1手術救命例を経験したので報告する.
  • 三木 隆久
    2014 年43 巻4 号 p. 230-233
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    重症胸部外傷に対する止血術では,左右いずれかの開胸では十分な視野が得られないことも多く,また両側の胸腔内損傷の修復や心停止回避のための大動脈遮断が必要となる場合もある.このような状況では,Clamshell thoracotomyを選択しなければならないこともしばしば経験する.症例1は41歳男性.バイク運転中にトラックと衝突し受傷した.ショック状態で救急搬送された.FAST(focused assessment with sonography for trauma)にて脾周囲に液体貯留所見を認め,緊急開腹術を施行した.脾摘出とガーゼパッキングによるDamage Control Surgery(DCS)を行ったが,右大量血胸によりショック状態が遷延するため右前側方開胸となった.右縦隔胸膜からの出血と切迫する心停止状態となったため,Clamshell thoracotomyを決断した.右心耳に4 cmの裂傷と右肺上葉に2カ所の裂傷を認めたため,それぞれ縫合修復を行った.術後経過良好で,受傷57日目に転院となった.症例2は75歳女性.バイク運転中に縁石と接触後に転倒し受傷した.ショック状態で救急搬送された.右大量血胸によるショック状態であり,右前側方開胸となった.右縦隔胸膜からの出血と切迫する心停止状態となったため,Clamshell thoracotomyを決断した.左心耳に2 cmの裂傷を認め,縫合修復を行った.術後経過良好で,受傷37日目に転院となった.Clamshell thoracotomyは,重症胸部外傷の出血制御には有効なアプローチ法であり,その適応,手術手技,タイミングを熟知しておかねばならない.
  • 野村 亮太, 中井 真尚, 島本 光臣, 山崎 文郎, 糸永 竜也, 岡田 達治, 寺井 恭彦, 宮野 雄太, 村田 由祐
    2014 年43 巻4 号 p. 234-237
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/09
    ジャーナル フリー
    右房瘻を伴う巨大右冠動脈瘤の1例を経験したので報告する.50歳男性.動悸を主訴に近医を受診し,上室性期外収縮の精査目的で当院に紹介された.CTにて右冠動脈入口部から右房後壁に至る巨大右冠動脈瘤(ϕ22 mm)および冠動脈瘤-右房瘻を認めた.右冠動脈入口部のパッチ閉鎖,冠動脈瘤-右房瘻閉鎖,冠動脈バイパス術(上行大動脈-橈骨動脈-右冠動脈),三尖弁形成術(Duran ring 29 mm)を施行した.術後経過は良好で,第19病日に退院となった.術後2年が経過し問題なく外来経過観察中である.冠動脈瘤右房瘻を認めた比較的稀な巨大冠動脈瘤に対する手術治療を経験したので,文献的報告を加えて報告する.
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