日本心臓血管外科学会雑誌
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[成人心臓]
中枢性尿崩症患者に対する開心術の1例
八板 静香野口 亮蒲原 啓司柚木 純二諸隈 宏之古賀 秀剛田中 厚寿古川 浩二郎森田 茂樹
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2016 年 45 巻 6 号 p. 277-280

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抄録

中枢性尿崩症(central diabetes insipidus : CDI)は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が消失あるいは減少することにより尿量増加をきたす疾患である.一般的にCDIに対しては抗利尿ホルモン(ADH)補充により治療を行うが,手術侵襲により体液量や電解質などが変動する周術期のCDI患者の管理法に関しては報告も少なく確立したものはない.今回,われわれはCDIを合併した弁膜症の手術症例を経験したので報告する.症例は下垂体腫瘍の摘出術後に続発性のCDIを発症していた72歳の女性で,大動脈弁置換術と僧帽弁形成術が施行された.CDIに関しては酢酸デスモプレシン内服で術前の尿崩症のコントロールは良好であった.術直後よりバソプレシンの持続静注を開始し術翌日よりバゾプレシンの内服を再開したが術後3日目頃より急激な尿量増加をきたした.バソプレシンの静注から皮下注射に切り替え,尿量に応じたスライディングスケールで投与量を決めてコントロールを図った.経過中,バゾプレシン過剰による水中毒を認めたが,日々の尿量と電解質バランスを注意深く観察しつつスライディングスケールに従ってバゾプレシンを漸減することで酢酸デスモプレシン内服へ切り替ることができた.尿量に応じたバゾプレシン皮下注のスライディングスケールは開心術後のCDIのコントロールに有効であった.

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