2017 年 46 巻 3 号 p. 122-125
症例は76歳,女性.縦隔内進展甲状腺癌を合併する重症大動脈弁狭窄症に対して,二期的手術を計画した.甲状腺癌は無名静脈,左内頸静脈に浸潤するステージIVの巨大腫瘍であり,手術に際しては胸骨正中切開を要するものであった.そのため二期的手術を行うこととし,正中切開を回避する目的で傍胸骨小切開アプローチにより大動脈弁置換術(AVR)を施行した.手術は右傍胸骨に約7 cmの皮膚切開をおき,第3,4肋軟骨を離断し右胸腔に折り込み胸腔内に達した.折り曲げた肋軟骨は整復して手術を終えた.術後は良好に経過し,いったん退院した後,再度入院し術後53日目に胸骨正中切開で甲状腺癌手術を行った.胸骨正中切開の回避が望ましい大動脈弁狭窄症症例において選択しうる術式であるといえる.