日本心臓血管外科学会雑誌
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46 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 小泉 滋樹, 南方 謙二, 山崎 和裕, 阪口 仁寿, 上原 京勲, 坂本 和久, 西尾 博臣, 中田 朋宏, 池田 義, 坂田 隆造
    2017 年 46 巻 3 号 p. 101-106
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    [背景]膠原病は全身の臓器に慢性的な炎症をきたす原因不明の自己免疫性疾患である.膠原病に関連する心血管病変に加えて,治療薬であるステロイドに起因する動脈硬化性の心血管病変に対してしばしば手術を必要とするが,併存する臓器障害,免疫抑制状態など,膠原病が手術に及ぼす影響は大きいと考えられる.[対象]膠原病患者における心大血管手術の成績を検討するため,2008年4月から2013年11月までに当院で行った成人心大血管手術のうち,膠原病を合併した31例と膠原病を合併していない539例を比較検討した.[結果]膠原病患者の平均年齢は64.4±16.7歳で,女性が26例(83.8%)と多く,ステロイド・免疫抑制剤は24例(77.4%)に投与されていた.膠原病群は間質性肺炎を6例(19.3%)に合併し,末梢血管疾患,頸動脈病変も非膠原病群より有意に多かった.手術死亡はなく,入院中の合併症に関しては,虚血イベント,感染症や急性腎障害,呼吸器合併症を含めいずれも非膠原病群と有意差はなかった.膠原病患者の平均27.8±16.0カ月の経過観察期間中,総死亡は4例,再入院は心血管イベントによるものが6例,創部の治癒不全が2例であった.生存症例はすべてNYHA class II以下に改善していた.[結語]膠原病を有する患者においても心大血管手術は安全に施行でき,初期・中期の良好なADLが期待できる.

症例報告
[成人心臓]
  • 増田 貴彦, 畑 正樹, 山谷 一広, 鈴木 智之, 寺尾 尚哉
    2017 年 46 巻 3 号 p. 107-110
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.発熱,咳嗽を主訴に受診した.血液培養からEnterococcus faecalisが検出され,経胸壁心エコーで肺動脈弁に疣贅を認めたため,感染性心内膜炎の診断となった.抗生剤を8週間投与したが,解熱と発熱を繰り返し,感染のコントロールがつかず手術となった.肺動脈弁は3尖とも弁破壊が高度であった.右室流出路から主肺動脈にかけて自己心膜パッチで拡大し,生体弁(CEP magna ease 25 mm)を縫着した.術後は抗生剤を合計6週間投与し,術後68日目に独歩退院した.術後心エコーで十分なEffective Orifice Area Index(EOAI)が得られた.本症例は,明らかな誘因のない孤立性肺動脈弁位感染性心内膜炎であり,稀な症例と考えられた.自己心膜で右室流出路から肺動脈を拡大し,生体弁による肺動脈弁置換術を行うことで十分な弁口面積を得た.

  • 羽室 護, 山本 賢二, 山田 知行, 榎本 栄
    2017 年 46 巻 3 号 p. 111-113
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    乳糜漏は胸部外科手術後の0.5~2%に発生する稀な合併症であり,CABG術後の発生率は0.09%とさらに低い.保存的治療で改善しない場合は外科的介入が必要となるが,近年は胸部外科手術後の乳糜漏に対する,オクトレオチドを用いた保存的治療の報告が散見される.今回われわれは,CABG後,内胸動脈採取時の胸管損傷によると思われる乳糜漏に対して,オクトレオチドを使用し,保存的に治療し得た2例を経験したので報告する.

  • 中村 栄作, 落合 昂一郎, 白崎 幸枝, 石井 廣人, 古川 貢之, 遠藤 穣治, 中村 都英
    2017 年 46 巻 3 号 p. 114-118
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は38歳男性で,新生児期に先天性完全房室ブロックに対し左開胸,心外膜リードによるペースメーカ治療を施行された.成人期に経静脈的心内膜リードへ変更を試みるも両側鎖骨下静脈閉塞していたため不成功に終わった.心外膜リードの閾値が上昇したため今後のシェネレータ消耗を考慮し,今回右開胸経右房的心内膜リードに変更し良好な結果を得た.右開胸経右房的心内膜リード植え込み術は,上大静脈閉塞・両側鎖骨下静脈閉塞例に対する有効な加療の1つと考えた.

  • 黒田 悠規, 新井 善雄, 袴田 圭祐, 工藤 雅文, 辻 崇, 寺西 宏王, 坪田 秀樹, 羽生 道弥
    2017 年 46 巻 3 号 p. 119-121
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は84歳女性.重症大動脈弁狭窄症(AS)で失神発作と心不全を繰り返しており,冠動脈病変を合併していた.低心機能,腎機能低下,大動脈高度石灰化を伴っており,開心術ハイリスクと考えられたため,心尖部アプローチ経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)とオフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)を同時施行した.術後経過は良好であった.重症AS患者はしばしば冠動脈疾患を合併しており,症例に応じた治療の選択が重要である.開心術ハイリスク症例において,TAVRとOPCABの同時施行は有用な治療選択肢と考えられた.

  • 河瀬 匠, 尾藤 康行, 村上 貴志, 細野 光治, 末廣 泰男, 西村 慎亮, 末廣 茂文, 柴田 利彦
    2017 年 46 巻 3 号 p. 122-125
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.縦隔内進展甲状腺癌を合併する重症大動脈弁狭窄症に対して,二期的手術を計画した.甲状腺癌は無名静脈,左内頸静脈に浸潤するステージIVの巨大腫瘍であり,手術に際しては胸骨正中切開を要するものであった.そのため二期的手術を行うこととし,正中切開を回避する目的で傍胸骨小切開アプローチにより大動脈弁置換術(AVR)を施行した.手術は右傍胸骨に約7 cmの皮膚切開をおき,第3,4肋軟骨を離断し右胸腔に折り込み胸腔内に達した.折り曲げた肋軟骨は整復して手術を終えた.術後は良好に経過し,いったん退院した後,再度入院し術後53日目に胸骨正中切開で甲状腺癌手術を行った.胸骨正中切開の回避が望ましい大動脈弁狭窄症症例において選択しうる術式であるといえる.

  • 三木 隆生, 高橋 徹, 茂原 淳
    2017 年 46 巻 3 号 p. 126-129
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.慢性腎不全のため30年前より血液透析を受けていた.5年前に大動脈弁狭窄症と診断され経過観察されていた.2年前に発熱と呼吸困難を主訴に当院に救急搬送され,精査の結果,感染性心内膜炎infective endocarditis(IE)に伴う僧帽弁閉鎖不全症,および完全房室ブロックと診断された.大動脈弁および僧帽弁の二弁置換術double valve replacement(DVR)とペースメーカー移植術を準緊急で行った.感染による炎症は僧帽弁前尖の後交連から僧帽弁輪を超えて房室中隔,右房に波及する広範なものだった.術後,抗生剤の投与により感染は鎮静化した.術後3カ月目に行った経過観察の経胸壁心エコーで僧帽弁輪直下から右房内へ突出する径30 mm大の瘤状構造物を指摘され,IE術後の左室仮性瘤と診断された.その後の心エコーで瘤の拡大を認めたため,前回手術から2年後に今回の手術となった.心停止後に右房を切開すると,コッホの三角部を中心に左室仮性瘤を認め,僧帽弁輪部膿瘍が原因と考えられた.瘤壁を切開すると開口部は径約20 mmだった.径35 mmのポリエステルパッチで開口部を閉鎖した.術後の心エコーでは,瘤内は血栓化し血流はなかった.瘤壁の病理組織所見では心筋細胞は認めず,線維化した組織のみだった.IEに対するDVR後の左室仮性瘤に対して,パッチ閉鎖術を施行した稀な1例を経験したので報告する.

[大血管]
  • 高橋 賢一朗, 丸山 雄二, 吉尾 敬秀, 森嶋 素子, 新田 隆
    2017 年 46 巻 3 号 p. 130-133
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は74歳女性.嚥下困難を主訴に当院を受診し,造影CTにて広範囲胸部大動脈瘤を指摘された.嚥下障害の原因は,胸部下行大動脈瘤(最大径49 mm)による食道圧排であった.Two-stage repairの方針とし,第1回目手術として大動脈基部・上行・弓部大動脈置換術(long elephant trunk使用)を先行し,第2回目手術として胸部下行大動脈置換術を施行する予定とした.第1回目手術を完了した時点で,予期せず嚥下障害の改善が得られた.この時点で胸部下行大動脈瘤は最大径49 mmであり無症状であるため,早急な手術を要する状況ではなく経過観察の猶予があると判断した.第2回目手術(下行大動脈置換術)はいったん保留とし,退院とした.外来経過観察していたところ,第1回目手術の1年後,急な嚥下障害再発と左臀部腫脹が生じ,緊急入院となった.精査の結果,残存する胸部下行大動脈瘤の急速拡大(最大径 62 mm)を認め,さらにaneurysm-induced DICが臀部筋層内出血を惹起していた.緊急TEVARを施行し,胸部下行大動脈瘤の血栓化が得られた後は,DICを脱し嚥下障害の改善が得られ,自宅退院に至った.今回われわれはlong elephant trunkに付随する稀有な事例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

  • —ステントグラフト遮断およびグラフト吻合の工夫—
    水元 亨, 寺西 智史, 伊藤 久人, 澤田 康裕, 山本 直樹, 金光 真治
    2017 年 46 巻 3 号 p. 139-142
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    症例は,50歳男性.J Graft Open Stent Graft® を用いて上行弓部人工血管置換術を施行後,残存する胸部下行大動脈瘤に対しオープンサージェリーを行った症例を経験した.中枢側遮断はステントグラフトを含めた大動脈壁の外側から遮断した.ステントグラフトと人工血管は,直接吻合(4-0 prolene連続吻合)としたが,出血のコントロールは容易であった.吻合部を含めステントグラフトを同サイズの人工血管で被覆することで人工血管からの予期せぬ出血に際しても対応可能と考えられた.

  • 藤﨑 正之, 末松 義弘, 井上 堯文, 西 智史, 吉本 明浩, 森住 誠, 森下 清文
    2017 年 46 巻 3 号 p. 143-147
    発行日: 2017/05/15
    公開日: 2017/08/05
    ジャーナル フリー

    特発性大動脈破裂(Spontaneous Rupture of the Thoracic Aorta)は明らかな外傷・大動脈瘤・大動脈解離を伴わない大動脈の破裂であり,稀な疾患である.本疾患に対しTEVAR治療にて救命しえた症例3例を経験した.本疾患の治療は,破裂部位の同定が困難であり,術前CT検査画像で詳細に検討しプランニングすることが重要である.遠位弓部・下行大動脈の破裂では,外科治療と同様にTEVAR治療の適応は十分可能であると思われた.特に術前血行動態が不安定な場合やリスクの高い合併症のある場合は,TEVAR治療の選択を考慮すべきと思われる.

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