2018 年 47 巻 3 号 p. 118-122
症例は78歳,男性.糖尿病性腎症で血液維持透析を導入された際の精査にて冠動脈三枝病変を認め,初期治療として右冠動脈の病変に対する経皮的冠動脈形成術percutaneous coronary intervention(PCI)を施行した.術後1日目より持続した発熱の精査目的に施行した造影CTにて,術前にはなかった左房内を占拠する腫瘤を認めたため,血行動態の破綻を危惧し,手術加療の方針となった.手術は心拍動下冠動脈バイパス術(左内胸動脈-鈍角枝-前下行枝,右胃大網動脈-後下行枝)を行った後,人工心肺下で心停止のもと左房腫瘤除去術を施行した.右側左房切開で左房内を観察すると,腫瘤は左房後壁にあり,表面平滑で内膜破綻や血腫はなかった.左房外膜を切開すると左房筋層内にあたる内部に陳旧性の血栓を認め,可及的に除去した.左房腫瘤は,画像所見と肉眼所見から壁内血腫であり,後ろ向きに原因を検索してみると,PCIの際に迷入したワイヤーが出血の原因であると考えられた.術後113日目の外来受診時にも左房壁内血腫の再発がないことを確認している.PCI後出現した左房壁内血腫に対して,心停止下での左房壁内血腫除去を行った稀な1例を経験したので報告する.