2018 年 47 巻 4 号 p. 187-191
症例は83歳,男性.弓部大動脈瘤に対してelephant trunk法を用いた全弓部置換術,腹部大動脈瘤に対してY型人工血管置換術を施行されていた.嗄声を契機に受診され,CTにて弓部人工血管末梢吻合部仮性瘤を認めた.アクセス血管が細く,腹部人工血管はseroma形成を繰り返しており,TEVARは困難であった.開胸による下行大動脈人工血管置換術を施行した.瘤を切開しelephant trunkをとらえる際に必要な中枢側遮断が人工血管周囲の高度癒着のため困難であり,循環停止や大出血を回避する目的で大動脈閉塞バルンを用いた.術後経過は良好であった.本症例は高齢であり,中枢遮断部位の周囲の剥離を要しないバルンによる大動脈遮断法は,手術侵襲を最小限にするために有用であった.大動脈閉塞バルンの使用にあたっては,TEEを有効に活用することによって,elephant trunk内への円滑な挿入と遮断部位の正確な同定,遮断血管への過負荷のない確実な血行遮断が可能であった.