2019 年 48 巻 1 号 p. 51-55
感染性心内膜炎(IE)の発生巣は左心系(僧帽弁位,大動脈弁位)に多く,右心系感染性心内膜炎(RSIE)の頻度はIEのなかでも5~10%程度と少ないと言われている.また,RSIEの原因は心室中隔欠損症(VSD)などの先天性心疾患や,ペースメーカーリード感染,三尖弁位人工物感染などの続発性の病態が多いと言われており実臨床で遭遇する機会は多くない.今回われわれは,未治療の齲歯起因のVSDシャントから続発したRSIEおよび重度三尖弁逆流症(TR)を呈した症例に対して,新鮮自己心膜を用いた三尖弁形成術と人工弁リングを用いた三尖弁輪形成を行い,良好な結果を得た1例を経験したので報告する.症例は23歳男性.13歳時に学校検診でVSDを指摘されたが短絡量が少ないため経過観察となっていた.齲歯を原因とするRSIEを発症し,三尖弁に疣腫付着とsevere TR,大動脈弁にRCCP, moderateARを認めた.内科抗生剤治療の後に疣腫縮小し待機手術予定となって退院したが,退院後2週間で胸痛を認め,疣腫による肺塞栓診断となり再入院した.経胸壁超音波にて三尖弁の疣腫拡大を認め早期手術の方針となった.術中所見は三尖弁前尖は弁腹の中央1/2に感染が波及し半月状に欠損していた,また,大動脈弁は感染兆候はないが2カ所の小さい瘻孔が空いていた.術式は自己心膜補填での大動脈弁形成,VSD direct closure,新鮮自己心膜を用いた三尖弁形成と人工リングを用いた三尖弁輪形成を行った(三尖弁輪径を測定すると45 mmと拡大を認めていたので,遠隔期の逆流制御を考慮した).術中の逆流テストおよび術直後の経食道超音波所見でTRなきことを確認し手術を終了した.術後1年経過した時点でもTR出現,感染の再燃なく経過している.