2019 年 48 巻 2 号 p. 142-146
症例は61歳女性.血栓閉塞型II型大動脈解離を発症し,保存的に加療された既往がある.1年後,突然の呼吸苦および胸背部痛のため当院へ救急搬送され,IIIb型急性大動脈解離と診断された.経過中,偽腔拡大に伴う真腔狭小化により,両下肢の間欠性跛行を認めていた.その後,徐々に下肢の虚血症状は進行していった.解離発症後2週間で右下肢の安静時痛が出現し,Ankle brachial index(ABI)も測定不可となった.下肢の血行再建術を検討したが,同時期にII型大動脈解離を再発したため全弓部置換術の適応となった.術中の下肢虚血を念頭におき,まず両側大腿動脈にT字グラフト末梢側をそれぞれ吻合し,上行大動脈とともにグラフト中枢側から人工心肺の送血を行った.弓部置換後も両下肢虚血は改善しなかったため,T字グラフト中枢側をそのまま利用し,弓部人工血管側枝をinflowとした両側大腿動脈バイパス術を施行した.術中下肢虚血の指標にわれわれは無侵襲混合血酸素飽和度監視システム(In Vivo Optical Spectroscopy : INVOS)を用いており,下肢血行再建術の是非の判断に有用であった.術後,グラフトの開存は良好であり,各臓器灌流に問題なく両下肢虚血も改善した.