2019 年 48 巻 6 号 p. 396-400
放射線誘発性心臓病は悪性リンパ腫や乳癌などの胸部悪性腫瘍に対する放射線照射後に起こるさまざまな心臓障害の総称であり,冠動脈狭窄をきたすことがある.症例は37歳,男性.10歳および11歳時に縦隔悪性リンパ腫に対して化学放射線療法を受けた.18歳時に胸腺種に対する胸骨正中切開下の拡大胸腺摘除,26歳時に心膜炎および心嚢液貯留に対して胸腔鏡下心膜開窓術を施行された.今回,労作時胸痛と心電図異常のため急性冠症候群が疑われ,当院へ救急搬送された.冠動脈造影で左右冠動脈起始部の高度狭窄を認め,不安定狭心症と診断され,放射線照射の既往,若年,冠動脈疾患のリスク因子を認めず,CTにおける大動脈基部の全周性石灰化の所見から,放射線誘発性の冠動脈狭窄と考えられた.放射線照射や以前の手術の影響による縦隔内の高度癒着と内胸動脈の使用困難が危惧された.緊急冠動脈バイパス術に際し,大腿動静脈から人工心肺を確立した後に胸骨正中切開を行った.両側の内胸動脈は放射線照射の影響で使用困難であったため,橈骨動脈と大伏在静脈を用いた冠動脈バイパス (左前下行枝,右冠動脈) を施行した.上行大動脈は高度癒着を認め,性状不良であったため,中枢側吻合デバイスを用いた.術後経過は良好であり,グラフトは良好に開存していた.