症例は72歳男性.無症候性の冠動脈重症III枝病変 (#4PD : 90%,#6 : 90%,#11 : 75%) のため,当院へ紹介された.術前CT検査で,起始異常を伴った右鎖骨下動脈の99%狭窄,右総頸動脈起始部の90%狭窄,および左鎖骨下動脈起始部の75%狭窄を認めた.弓部3分枝狭窄に対する頸動脈ステント留置術 (CAS) での治療は困難であった.弓部4分枝中3分枝の狭窄を伴った重症III枝病変に対して,冠動脈バイパス術 (CABG) および弓部分枝再建を併施した弓部大動脈全置換術 (TAR) の同時手術を施行した.術後に脳合併症なく,経過は良好で12日目に独歩退院となった.
症例は78歳女性.心雑音を契機に非リウマチ性高度大動脈弁狭窄症と僧帽弁輪石灰化を伴う中等度僧帽弁狭窄症を指摘され,徐々に労作時息切れが出現し手術となった.術中所見は大動脈弁輪越しに僧帽弁を観察すると大動脈弁輪下のA2 aortic curtainからmedial trigonにかけて強い石灰化を認めた.A2-3の僧帽弁前尖左室側の石灰化をSONOPETにて除去し,大動脈弁置換術を施行した.術後心臓超音波検査にて僧帽弁の可動性は改善し僧帽弁狭窄症が軽度まで改善した.
今回,急性左心不全を伴った重症僧帽弁閉鎖不全症の患者に対して,IMPELLA 5.0® による心不全治療 (bridge to surgery) を先行し,二期的に弁置換術を行い救命した1例を経験したため報告する.症例は76歳男性.呼吸困難を訴え当院に搬送され,腱索断裂による重症僧帽弁閉鎖不全症と診断された.肺うっ血による肺酸素化障害が著明で,同日IMPELLA 5.0® とVV-ECMOの装着を行った.術直後より肺うっ血の改善を認め,第3病日に僧帽弁置換術を行いIMPELLA 5.0® を離脱し,第5病日にECMOを離脱した.
放射線誘発性心臓病は悪性リンパ腫や乳癌などの胸部悪性腫瘍に対する放射線照射後に起こるさまざまな心臓障害の総称であり,冠動脈狭窄をきたすことがある.症例は37歳,男性.10歳および11歳時に縦隔悪性リンパ腫に対して化学放射線療法を受けた.18歳時に胸腺種に対する胸骨正中切開下の拡大胸腺摘除,26歳時に心膜炎および心嚢液貯留に対して胸腔鏡下心膜開窓術を施行された.今回,労作時胸痛と心電図異常のため急性冠症候群が疑われ,当院へ救急搬送された.冠動脈造影で左右冠動脈起始部の高度狭窄を認め,不安定狭心症と診断され,放射線照射の既往,若年,冠動脈疾患のリスク因子を認めず,CTにおける大動脈基部の全周性石灰化の所見から,放射線誘発性の冠動脈狭窄と考えられた.放射線照射や以前の手術の影響による縦隔内の高度癒着と内胸動脈の使用困難が危惧された.緊急冠動脈バイパス術に際し,大腿動静脈から人工心肺を確立した後に胸骨正中切開を行った.両側の内胸動脈は放射線照射の影響で使用困難であったため,橈骨動脈と大伏在静脈を用いた冠動脈バイパス (左前下行枝,右冠動脈) を施行した.上行大動脈は高度癒着を認め,性状不良であったため,中枢側吻合デバイスを用いた.術後経過は良好であり,グラフトは良好に開存していた.
本態性血小板血症 (essential thrombocythemia : ET) は慢性骨髄増殖性疾患に分類される比較的稀な疾患である.血小板数の異常増加となり,血栓形成傾向と易出血性の両方を発症しやすくなる.今回われわれは術前すでにETの診断がなされ抗悪性腫瘍剤ハイドレア (ヒドロキシカルバミド) による治療中であった僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症の患者に僧帽弁置換術を予定した.感染と創傷治癒遅延を憂慮し,ハイドレアを術前2週間前に中断したところ血小板数が上昇しすぎたため,ハイドレアを術前の半量で再開,約1週間で調整し直し手術を施行した.術中はヘパリンでACTをコントロールできたが,若干のヘパリン抵抗性を認め通常より投与量が多くなった.術後はPseudomonas aeruginosaによる尿路感染とE. coli ESBL産生の多剤耐性菌による肺炎を起こしたが治癒できた.術中術後通して出血や血栓塞栓症もなく術後25日目に自立歩行退院となった.
症例は60代女性.冠攣縮性狭心症で他院に通院加療中であった.経胸壁心エコー検査で左房内に心房中隔からバルサルバ洞後方の左房壁に至る広基性の可動性に富む腫瘍を指摘され,当院に紹介となった.CT検査やMRI検査の結果からは粘液腫が疑われた.手術は胸骨正中切開で行い,経心房中隔アプローチで左房腫瘍に到達した.左房内には同一の基部をもつ20×12×10 mm大と40×30×15 mm大の2つの腫瘍を認めた.粘液腫を念頭に約5 mmのマージンを確保して腫瘍を切除した.小さい腫瘍は充実性で粘液腫を疑った.大きい腫瘍は乳頭状で,生理食塩水に浸したところイソギンチャク様の特徴的な形態を示したことから乳頭状線維弾性腫を疑った.ウシ心膜パッチを用いて心房中隔欠損部を補填した.病理診断では,小さい腫瘍は索状,管腔様構造を形成する腫瘍細胞を認め典型的な粘液腫の像を認めた.大きい腫瘍の乳頭状構造部分にはcalretinin染色に陽性を示す腫瘍細胞を少数認め,villous typeの粘液腫と診断された.術前検査や肉眼所見で両者を鑑別することは困難であり,判断に迷う場合はマージンを設けて全層切除するべきである.
広範囲腹部大動脈閉塞性疾患に対する治療は,しばしば難渋することがあり,われわれはステントグラフト (SG) を用いたハイブリッド手術 (HBO) を3例 (平均69歳) 施行した.Rutherford分類I-1群1例,2群1例,3群1例,TASC II分類D型2例,D+A型1例で患側肢ABIは平均0.52であった.全例全身麻酔下に血管造影装置を完備した手術室で行い,腎動脈下片側腸骨動脈病変にはaorto-uni-iliac法でSGを使用し,外腸骨-大腿動脈交叉バイパスを施行した.バイパス中枢側吻合は外腸骨動脈とし,遠隔期再狭窄に対するカテーテル治療のためSG側大腿動脈には手術操作を加えなかった.2例で腸骨動脈病変にbare stentを追加留置した.全例再建が成功し,手術時間は平均123分,合併症なく術後平均11日で退院し,現在まで開存は良好である.われわれはSGを用いたHBOを施行し,良好な結果を得たので報告する.
症例は66歳,男性.中等度大動脈弁閉鎖不全症および遠位弓部大動脈瘤で2005年より外来で経過観察となっていた.徐々に遠位弓部大動脈瘤径が拡大してきたため手術を施行した.術前CT検査では遠位弓部大動脈瘤は最大短径63 mmの紡錘状の瘤であり,左鎖骨下動脈より67 mm末梢まで存在した.術前の計測では末梢のランディング長を30 mmとすると,左鎖骨下動脈中枢部よりOSGを挿入した場合,挿入長を150 mm必要とした.末梢ランディング部の血管径は28.9 mmであり,血管径110%のサイズのOSG (ステント径33 mm,ステント長150 mm) を選択した.また術前の梅毒血清反応でRPR定量5.5 RU,TPLA定量4,670 TUと高値であったが,既往歴に梅毒の治療歴があり梅毒治療後の抗体保有者と判断した.手術は胸骨正中切開で前縦隔に達した後,両腋窩動脈から送血,上下大静脈脱血で体外循環を開始した.大動脈周囲の剥離の際,大動脈は周囲組織との癒着が高度であり動脈壁は大動脈炎症候群様であった.全身冷却中に大動脈弁置換術を行い,25°Cの低体温循環停止下で選択的脳分離体外循環を確立した後に左総頸動脈と左鎖骨下動脈の間で大動脈を離断し,ここよりOSGを大動脈弁レベルの高さまで挿入留置した.上行弓部置換術は4分枝30 mmの人工血管を使用した.病理所見では大動脈壁の栄養血管周囲にリンパ球,形質細胞の浸潤を認め中膜の弾性線維の線維化を認めた.術中,術後病理学的所見より梅毒性大動脈瘤と診断し,術後アモキシリン1,500 mg/日の内服を3カ月間行った.対麻痺や嗄声等の合併症は認めず,術後13日目に退院となった.梅毒性大動脈瘤は臨床上稀であるが,つねに大動脈瘤の原因の1つとして考えておかねばならない.
症例は76歳,男性.偽腔早期血栓閉塞型Stanford A型急性大動脈解離 (DeBakey II型) の診断で血圧コントロール目的で入院.入院直後の血圧コントロールは不良で背部痛の増悪を認め,再度CT検査を施行したところ大動脈解離の進展を認めた.DeBakey I型へ移行し上行大動脈にULPを有する偽腔および上行大動脈の拡大を認め,緊急で上行弓部部分置換術を施行した.術後両側のTh7レベル以下の感覚障害と弛緩性対麻痺を認めた.体血圧を維持しながらナロキソンを投与し,脊髄ドレナージを施行したが,対麻痺は改善しなかった.胸腹部MRIでは第5胸椎レベルから腰椎レベルにかけて脊髄の異常高信号病変を認め,脊髄梗塞と診断された.術後の胸腹部造影CT検査では下行大動脈以下の後壁側偽腔は血栓閉塞し,肋間動脈に造影効果は認められなかった.対麻痺を合併したStanford A型急性大動脈解離の1手術例を経験し,超急性期の降圧管理の重要性と緊急手術を必要とする大動脈解離に合併した対麻痺治療について考察を加えた.
妊娠後期に急性A型大動脈解離を発症し,母子ともに救命できたMarfan症候群の1例を報告する.症例は34歳女性で,家族歴はないが典型的なMarfan症候群の身体的特徴を呈し,3回の満期経腟分娩歴があった.4回目の妊娠38週時に突然の胸背部痛が出現し,Stanford A型急性大動脈解離と診断された.心嚢液の貯留はなく血行動態も安定しており,ヘパリン投与による胎盤剥離面からの子宮出血が危惧されることから,まず全身麻酔下に帝王切開で胎児を娩出しその後約半日間,鎮静と人工呼吸器管理を続け,後出血がないことを確認し,自己弁温存大動脈基部置換術を施行した.母子ともに特に合併症なく,良好な結果を得た.
血管内治療の増加に伴い,血管内治療デバイス表面に塗布されている親水コーティングが剥離することによる塞栓症の報告を最近目にするようになった.今回TEVAR後に生じた親水コーティング塞栓症 (HPE : hydrophilic polymer embolism) を経験したので,文献的考察を含めて報告する.症例は70歳男性.14年前に解離性大動脈瘤に対して遠位弓部大動脈人工血管置換術を施行している.フォローCTで中枢側吻合部に仮性瘤を認めたため,TEVAR目的に当科へ入院した.右総大腿動脈アプローチにより1 debranching TEVARを施行した.ステントグラフト留置の際pull-through法でステントグラフトを進め留置した.術後4日目に紫斑が出現し増加傾向であったため皮膚生検を行ったところ,thrombosis and hydrophilic polymer gel embolizationの診断となった.紫斑は出現したものの虚血症状などはないため経過観察した.紫斑が消退傾向であり術後27日目に独歩退院した.親水コーティングは血管内デバイスにひろく塗布されており,血管内治療を行う際には注意を要すると考えられた.
症例は66歳男性.腹部大動脈瘤手術および冠動脈バイパス術から13年後,経過観察目的で施行したCT検査で径35 mmの右鎖骨下動脈瘤を認めた.右内頸動脈の閉塞も認め,術中の頭蓋内血流維持が重要であり術式に工夫を加えた.術中は無侵襲混合血酸素飽和度監視装置 (INVOS®) を前額部と後頭部に装着し脳血流モニタリングを行った.右腕頭動脈の遮断テストでINVOS® の有意な低下を認めたため,瘤切開,人工血管縫着の際は,右鎖骨下動脈中枢側および末梢側をそれぞれ遮断し,右総頸動脈は遮断することなく血流を保った.また,右大腿動脈→右上腕動脈外シャントを施行し,右椎骨動脈への血流も保った.以上により脳梗塞をきたすことなく患者は退院した.
Cardiovascular surgeons have strong preferences regarding basic surgical skills. However, those basic skills have never been discussed great detail. The aim of this study is to survey the approach methods for axillary and subclavian artery targeting cardiovascular surgeons in Japan aged under 40, and to share the results of those basic skills.