2020 年 49 巻 4 号 p. 180-187
[目的]急性腎障害(AKI)のリスクが高いとされる心臓・胸部大血管手術症例の術後AKIと持続的血液濾過透析(CHDF)の有用性について検討した.[方法]2014年から2017年までの心臓・胸部大血管手術症例のうち,透析患者と術後PCPS使用例を除いた303例を対象とし,慢性腎臓病の重症度分類に基づき6群に分けた(術前推算糸球体濾過量(eGFR); G1: ≥90,G2 :<90,G3a :<60,G3b :<45,G4 :<30,G5 :<15).術後AKIとCHDF開始後の尿量,循環の変化について検討した.[結果]術後AKI発生率は30.7%.術前eGFRが60 ml/min/1.73 m2 未満のG3a,G3b,G4,G5は,腎不全のないG1,G2と比較してAKI発生率が有意に高く(p<0.01),多変量解析では,術前eGFRが術後AKI回避の予測因子となった(カットオフ値:56 ml/min/1.73 m2,odds ratio=4.104,AUC=0.6954).乏尿・無尿でCHDFを使用したのは11例(3.6%)であった.CHDF開始後,尿量と体血圧は有意に(p<0.01)上昇した.なかでも2例では,CHDF開始後1時間で,乏尿・無尿状態から急速に尿量が増加した(2.5 ml/kg/h,1.8 ml/kg/h).[結論]心臓・胸部大血管手術後のAKI発生率は高率であった.術後乏尿・無尿に至った症例では,早期にCHDFを導入することにより尿量,循環が改善する場合がある.