2020 年 49 巻 4 号 p. 196-199
症例は51歳女性.僧帽弁位感染性心内膜炎と診断され抗菌薬加療中に播種性血管内凝固症候群,多発性脳梗塞,脳出血を合併し転院搬送された.経胸壁心臓超音波検査では僧帽弁前尖に著明な可動性を有する20 mmを超える疣贅を認め,頭部CTで左前頭葉に広範囲皮質下出血を認めた.右片麻痺を認めたが,従命は可能であった.巨大疣贅による新規脳塞栓症は致命的と考え,早期開心術の方針とした.開心術周術期の脳合併症増悪リスクを軽減する目的で,脳出血発症翌日に開頭血腫除去および外減圧を施行し,頭蓋内の止血を確認後,開頭術4日後に疣贅切除および僧帽弁形成術を施行した.術中抗凝固には通常のヘパリン管理を行った.術後に脳出血増悪や脳浮腫による脳幹圧迫,新規脳出血は認めなかった.神経学的後遺症として,右上肢巧緻運動障害,症候性てんかんを認めたが,自力歩行可能となりリハビリ転院に至った.頭蓋内出血を合併した感染性心内膜炎に対する急性期の開心術は一般的には推奨されないが,かかる病態に対し,本症例での治療戦略は安全に開心術を行うための選択肢の1つになり得る.