2022 年 51 巻 1 号 p. 25-30
[目的]急性心筋梗塞後の稀な合併症の1つとして乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症があるが,冠動脈攣縮が関与したと考えられる乳頭筋断裂の報告はきわめて稀である.[症例]特に既往歴のない64歳女性.数カ月前の朝方の胸部違和感と1週間前からの呼吸苦を主訴に来院し,急性冠症候群と乳頭筋断裂の診断で緊急冠動脈造影検査を施行した.術前冠動脈造影検査時に右冠動脈の攣縮が疑わしい所見を認め,その他左回旋枝#11に冠動脈瘤形成と90%狭窄,#13に50%狭窄を認めた.手術は,僧帽弁形成術と冠動脈バイパス術2枝(大伏在静脈-右冠動脈#3,大伏在静脈-後側壁枝)を施行した.術後経過良好で,第13病日に独歩退院した.[結語]近年冠動脈狭窄が50%未満の心筋梗塞(Myocardial Infarction with Non-Obstructive Coronary Arteries : MINOCA)という概念が報告され,冠動脈攣縮も原因の1つと考えられ,本症例もMINOCAであった可能性が示唆される.