日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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51 巻, 1 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 田中 啓輔, 片山 雄三, 磯部 将, 川田 幸太, 布井 啓雄, 原 真範, 益原 大志, 塩野 則次, 藤井 毅郎, 渡邉 善則
    2022 年 51 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は1歳7カ月女児.在胎36週6日,体重1,351 gで出生.Cornelia de Lange症候群・Fallot四徴症の診断に加え,大動脈弓小弯側から主肺動脈へのシャント血流が確認され,異所性動脈管開存と診断.頭部超音波検査で前大脳動脈の拡張期血流の途絶と逆行性血流を呈することから,異所性動脈管による盗血現象と診断し,日齢25で外科治療介入.手術は胸骨正中切開でアプローチし,シャント血管を結紮すると,経皮的酸素飽和度が90%台後半から70%台前半へと低下するため,いったん結紮を解除.80%台後半を維持できるように絞扼し,手術を終了した.術後頭部超音波検査で前大脳動脈圧波形改善を認めた.外来観察中に体重増加に伴う酸素需要増大を認め,1歳7カ月に1弁付きパッチを用いた心内修復術を施行した.希少な背景を有するファロー四徴症に合併した異所性動脈管開存に対し,動脈管絞扼を先行し心内修復術に達した1例を経験したので報告する.

  • 三浦 法理人, 中田 朋宏, 城 麻衣子, 末廣 章一, 今井 健介, 清水 弘治, 和田 浩巳, 織田 禎二
    2022 年 51 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は28歳男性.1歳時に総肺静脈還流異常症(Total anomalous pulmonary venous connection: TAPVC)Ⅰa心内修復術が施行された.15歳時の造影CTでTAPVC Ⅱaの残存を指摘され,double connectionの混合型(Ⅰa+Ⅱa )であったと診断された.27歳時の心臓カテーテル検査で肺体血流比(Qp/Qs)の増大とシャント血管径の拡大を認め,軽度三尖弁逆流も生じており,治療介入が必要であった.Ⅱaの遺残であり,カテーテル治療はリスクが高いと考え,外科的治療(右房側からのpatch閉鎖)を施行した.術後経過は良好で,処理後のシャント血管は自然消退しつつあり,血栓塞栓症状も起こしていなかった.Double connectionの混合型TAPVC術後において,minor drainageのシャントが徐々に増加した再手術例は稀であり,これについて文献的考察を加え報告する.

[成人心臓]
  • 松山 正和, 川越 勝也, 中村 都英, 赤須 晃治
    2022 年 51 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    後乳頭筋(PPM)壊死を疑う急性心筋梗塞(AMI)後の左室自由壁破裂(LVFWR)に対し,意図的に外科的修復術を遅延した症例を報告する.症例は胸背部痛を主訴に緊急搬送された67歳女性である.経胸壁心エコー検査(TTE)で心嚢液貯留とPPM頭部の可動性亢進と低輝度所見を認めPPM壊死が疑われた.冠動脈造影検査で回旋枝起始部閉塞を認めた.心臓脱転などの手術操作でのPPM断裂への進展が懸念され,Oozing型で呼吸循環動態破綻がないことからIABP(intra-aortic balloon pumping)管理を含む内科的治療とした.発症から7日目のTTEで心嚢液増加を認め,非縫合術式を行った.術後3日目にIABPを離脱し,12日目に自宅独歩退院となった.

  • 田林 侑花, 河津 聡, 大谷 将之, 細山 勝寛, 神田 桂輔, 伊藤 校輝, 小田 克彦
    2022 年 51 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は57歳男性,1カ月前からの呼吸苦を主訴に来院,肺塞栓の診断に至り,心エコーで右房内血栓を認めたため,当科紹介となった.経胸壁心臓超音波検査では,右房内に可動性を有する数本の線状巨大血栓と両側肺動脈主幹部に塞栓所見を認めたため,緊急血栓除去術を施行した.人工心肺下心拍動下に右房切開と右肺動脈切開および主肺動脈から左肺動脈に至る切開を施行し,可視範囲内の血栓をすべて除去した.右房内血栓は線状のキアリ網に付着していた.術後は呼吸循環動態が改善し,術後26日目に独歩退院となった.キアリ網が右房内血栓形成,または血栓増悪に関与し肺塞栓を合併したとの報告は少なく,治療法も確立されていない.今回,キアリ網に血栓が付着し,可動性を有する右房内血栓と肺塞栓を発症し,血栓除去術により呼吸循環動態を改善し得た症例を経験したので報告する.

  • 髙橋 雄, 新野 哲也
    2022 年 51 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.生下時より右胸心,完全内臓逆位を指摘されていた.2019年9月,労作時の前胸部不快感,左背部痛を自覚し,当院救急外来を受診.血液検査で軽度の心筋逸脱酵素の上昇,心電図検査でⅠ,aVL,V4-V6のT波の平坦化を認めた.冠動脈造影検査を施行したところ,解剖学的左冠動脈前下行枝および解剖学的右冠動脈に有意狭窄を認めた.解剖学的左冠動脈は広範囲な石灰化病変を含む完全閉塞病変であったため,経皮的冠動脈形成術(PCI)は困難と判断し,冠動脈バイパス術の適応と判断した.体外循環心拍動下に冠動脈バイパス術(右内胸動脈-解剖学的左冠動脈前下行枝,大伏在静脈-解剖学的右冠動脈後下行枝)を施行した.完全内臓逆位に対する冠動脈バイパス術は比較的稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 和田 陽之介, 岡村 誉, 北田 悠一郎, 藤森 智成, 安達 秀雄
    2022 年 51 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    [目的]急性心筋梗塞後の稀な合併症の1つとして乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症があるが,冠動脈攣縮が関与したと考えられる乳頭筋断裂の報告はきわめて稀である.[症例]特に既往歴のない64歳女性.数カ月前の朝方の胸部違和感と1週間前からの呼吸苦を主訴に来院し,急性冠症候群と乳頭筋断裂の診断で緊急冠動脈造影検査を施行した.術前冠動脈造影検査時に右冠動脈の攣縮が疑わしい所見を認め,その他左回旋枝#11に冠動脈瘤形成と90%狭窄,#13に50%狭窄を認めた.手術は,僧帽弁形成術と冠動脈バイパス術2枝(大伏在静脈-右冠動脈#3,大伏在静脈-後側壁枝)を施行した.術後経過良好で,第13病日に独歩退院した.[結語]近年冠動脈狭窄が50%未満の心筋梗塞(Myocardial Infarction with Non-Obstructive Coronary Arteries : MINOCA)という概念が報告され,冠動脈攣縮も原因の1つと考えられ,本症例もMINOCAであった可能性が示唆される.

  • 矢澤 翼, 山木 洸史, 加藤 葵, 後藤 祐樹, 山本 良太, 杉浦 純也, 田中 啓介, 加藤 亙
    2022 年 51 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    左心耳閉鎖デバイスWATCHMANは,非弁膜症性心房細動に対する血栓塞栓症予防の治療として,抗凝固療法での出血リスクが高い患者に対して使用可能なデバイスである.今回われわれはWATCHMAN留置中に左心耳穿孔により心タンポナーデを来し,緊急開胸手術を要した症例を経験したため報告する.症例は83歳の女性で,カテーテルアブレーション後に再発した発作性心房細動(CHA2DS2-VAScスコア4点,HAS-BLEDスコア3点)に対してWATCHMAN留置が予定された.留置中に心タンポナーデを来し,心嚢ドレナージを行ったが活動性出血が続いていたため,緊急で人工心肺使用下に開胸手術を施行した.左心耳穿孔からの出血と判明し,左心耳縫縮術を行い止血を得た.WATCHMAN留置による左心耳穿孔は稀な合併症であり,文献的考察を含めて報告する.

[大血管]
  • 野村 竜也, 古川 浩二郎, 福田 倫史, 平田 雄一郎, 恩塚 龍士, 田山 栄基, 森田 茂樹
    2022 年 51 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    急性大動脈解離に対するオープンステントグラフト(以下OSG)を併用した全弓部置換術後の脊髄障害は重篤な術後合併症の1つであり,わが国の多施設研究でその発生率は3.5%と報告されている.脊髄障害の原因には多くの要因があると考えられるが,その1つとして肋間動脈閉塞の関与が考えられる.症例は71歳女性.Stanford A型急性大動脈解離に対し弓部大動脈置換+OSG挿入術を施行した.術後より対麻痺を認め,脳脊髄液ドレナージ等を行ったが,改善を認めなかった.術前の造影CTで確認できた肋間動脈10対のうち7対が偽腔起始であり,術後に6対の肋間動脈が閉塞した.術前の造影CTで肋間動脈の多くが偽腔起始であり,かつリエントリー所見に乏しい症例においてOSGを使用した場合,術後偽腔閉塞に伴い肋間動脈が閉塞し,脊髄虚血のリスクが増大し得ると考えられる.

  • 清水 理葉, 墨 誠, 村上 友梨, 大木 隆生
    2022 年 51 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    胸部大動脈瘤や大動脈解離に対する胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)は近年急速に普及してきており,現在は病変部位や病態によっては第一選択としても用いられているが,シースが比較的太く,大腿動脈や腹部大動脈などのアクセスルートでも使用できない症例も存在する.今回右総頸動脈からTEVARを施行した症例を経験したので報告する.症例1 : 86歳男性.約20年前に感染性腹部大動脈瘤,十二指腸穿破に対して腹部大動脈断端閉鎖,右腋窩-両側総大腿動脈バイパスを施行された.経過中に下行大動脈の嚢状瘤が拡大傾向にあった.腹部大動脈は断端となっており,腹部大動脈からのアプローチは困難であり,右総頸動脈をアクセスルートとしてTEVARを施行した.症例2 : 79歳女性.DeBakeyⅡ型急性大動脈解離で上行大動脈にUlcer-like projection(ULP)病変を認めた.全身状態不良で外科手術不能と判断されたが,ULP病変の拡大を認めたため,TEVARの方針とした.下行大動脈がshaggy aortaで腹部大動脈からのアクセスが困難であり,右総頸動脈をアクセスルートとし,上行大動脈にTEVARを施行した.アクセスルートが他にない症例に対する右総頸動脈アプローチのTEVARは有用な方法と考えられた.

  • 大原 勝人, 鈴木 峻也, 芹澤 玄, 渡辺 卓
    2022 年 51 巻 1 号 p. 44-47
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は73歳の男性.胸部異常陰影で紹介となり,CTにて右側大動脈弓,左鎖骨下動脈起始異常を伴うKommerell憩室および嚢状弓部大動脈瘤を指摘された.自覚症状は認めなかったが,嚢状瘤の破裂リスクを考慮し,手術の方針とした.手術は胸骨正中切開でアプローチした.人工心肺下,open distalとして弓部大動脈を離断後,オープンステントグラフトを挿入し,4分枝管人工血管で弓部大動脈置換を行った.人工心肺を離脱後,左鎖骨下動脈のコイル塞栓を行い,エンドリークがないことを確認した.術後,右声帯麻痺による嗄声を認めたが,他に大きな合併症なく、術後30日目に自宅退院となった.

  • 中路 俊, 三浦 崇, 松丸 一朗, 谷川 陽彦, 川口 祐太朗, 田口 駿介, 村上 友悟, 尾長谷 喜久子, 江石 清行, 谷口 真一郎
    2022 年 51 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    41歳,男性.36歳時にマルファン症候群と診断され,バルサルバ洞動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全症,上行大動脈瘤に対して自己弁温存基部置換および部分弓部置換を施行された.41歳時に突然の背部痛を自覚し,左鎖骨下動脈分岐部付近にエントリーを有する急性B型大動脈解離を発症した.保存的治療を行ったが下行大動脈近位部が50 mmに拡大したため,人工血管を中枢ランディングゾーンとする胸部大動脈ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair;TEVAR)を亜急性期に行った.術後6カ月でステントグラフト留置部の偽腔はほぼ消退し,術後合併症や予定外の追加治療はなく経過した.術後3年でステントグラフト留置範囲より末梢に残存した偽腔が50 mmに拡大したため胸腹部人工血管置換術を行った.マルファン症候群に対する血管内治療の適応は限られているが,広範囲大動脈病変に対する大動脈再建において有効な治療手段であると考えられた.

[末梢血管]
  • 吉本 公洋, 若狭 哲
    2022 年 51 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    静脈性血管瘤(Venous Aneurysm:VA)は限局性の静脈拡張性病変と定義される比較的稀な疾患であるが,深部静脈のVAでは瘤での血栓形成が肺血栓塞栓症(PTE)の原因となるため外科治療の適応となる.PTEの発症を契機に発見された膝窩静脈のVAが塞栓症の原因と考えられ手術を施行したので報告する.症例は79歳の女性.突然の呼吸困難の出現で当科を受診,心臓超音波検査で右心負荷と肺高血圧の所見があり,造影CTにて肺動脈塞栓と右膝窩静脈のVAを認めた.PTEの加療ののち内部に血栓を有するVAの外科治療を施行した.手術は腹臥位の後方アプローチで瘤切除と静脈形成術を行った.術後の造影CTでは静脈の瘤化や静脈内血栓像なく下腿浮腫などの静脈還流障害を疑う所見も認めていない.突然発症の呼吸苦ではPTEを念頭にすみやかに確定診断をなす必要があり,有症状の膝窩静脈のVAに対しては外科治療が推奨されると考える.

  • 野村 颯, 早津 幸弘, 羽場 文哉, 山谷 一広, 畑 正樹
    2022 年 51 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は79歳女性.弓部大動脈瘤に対し全弓部人工血管置換術を施行し,合併症を認めず術後25日目に退院となった.術後CTでは,頸部分枝再建部を含め異常を認めなかった.しかし,術後10カ月目に左肩痛を主訴に当科外来を受診された.CTで,左鎖骨下動脈再建部からの完全閉塞を認め,頸動脈エコーでは鎖骨下動脈盗血現象を認めた.神経学的症状を認めなかったため経過観察となったが,術後11カ月目に一過性の意識消失と失語症を発症し,当院へ搬送となった.前医のMRIでは中大脳動脈と後大脳動脈の分水嶺域にあたる側頭葉皮質後半部を中心とした脳梗塞を認め,当院搬送後の拡散強調画像では同部位の高信号域拡大を認めた.失語を伴う脳梗塞を発症した鎖骨下動脈盗血症候群と診断し,さらなる脳虚血の進行抑制のため腋窩動脈-腋窩動脈バイパス術を施行した.術後には失語の改善を認め,MRIにおいても新たな梗塞巣の出現を認めなかった.失語を含め明らかな後遺症を認めず,術後9日目に退院となり,1年半が経過した現在も再発を認めていない.脳梗塞を発症した鎖骨下動脈盗血症候群の症例に対し,非解剖学的バイパスでの血行再建を行い良好な結果が得られたため,文献的考察を含め報告する.

Invited Commentary
NP紹介
U-40企画コラム 第51回日本心臓血管外科学会学術総会
  • 山元 博文, 和田 久美子, 幾島 栄悟, 比嘉 章太郎, 寺谷 裕充, 永冨 脩二, 川越 勝也, 阿部 貴文, 原田 雄章
    2022 年 51 巻 1 号 p. 1-U1-1-U10
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー

    U-40世代は,試行錯誤しつつ,日々外科医としての修練を行い,思い描くさまざまなキャリア形成を行っている.第51回日本心臓血管外科学会総会U-40特別企画にて,U-40世代と諸先輩方がどのような将来像を持ち,どのようなことに悩み,今までどのようなキャリアを歩んできたのかを振り返る機会を得ることができた.今回,U-40世代が抱く今後の展望を可視化する目的でアンケートを行ったため,その結果を報告する.

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