日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告[成人心臓]
抗リン脂質抗体症候群を合併した感染性心内膜炎に対して体外循環時の抗凝固に注意し弁置換術を施行した1症例
北方 悠太恒吉 裕史片山 秀幸和田 拓己山田 健太
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2022 年 51 巻 5 号 p. 280-284

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抄録

症例は71歳女性.3年前に急性心筋梗塞を発症した際に,精査の結果抗リン脂質抗体症候群の診断となり,それ以降抗凝固薬の内服を継続していた.発熱,強い倦怠感を主訴に近医を受診し,血液培養陽性,MRI画像上の散在性の脳梗塞,腸腰筋膿瘍,化膿性椎間板炎を認め,心エコー上は明らかな疣贅は認めないものの,感染性心内膜炎の診断となった.抗生剤加療で血液培養は陰性化したが,弁破壊の進行による重度の僧帽弁閉鎖不全を認めたため手術加療目的で当院に紹介受診となった.大動脈弁閉鎖不全症を併せて認めたため僧帽弁置換術に大動脈弁置換も合併して行った.僧帽弁は弁下組織を含め両尖ともに強い肥厚を伴っており,後尖P2には穿孔を認めた.弁形成は不可能と判断し弁置換を行った.手術時間は4時間2分,大動脈遮断時間は92分.術中に提出した僧帽弁弁尖の培養は陰性であった.抗リン脂質抗体症候群があり,術中のactivated clotting time(ACT)管理は困難と考え,HMS PLUSによりヘパリン血中濃度を測定し管理した.人工心肺中の目標ヘパリン血中濃度を3 mg/kgと設定し管理を行い,術中に血栓傾向や回路圧の上昇は認めず問題なく終了した.術後6時間でヘパリン投与を再開し,ひき続き経口での抗凝固療法を行い問題なく経過し,術後12日で独歩退院となった.抗リン脂質抗体症候群の患者の開心術ではHMS PLUSを用いたヘパリン血中濃度管理が有用であると考えられる.

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