2023 年 52 巻 1 号 p. 18-23
39歳男性,3日前からの発熱,呼吸困難を主訴に救急搬送された.心エコーで大動脈弁に可動性のある10 mm大の疣贅と高度の弁逆流を認めたため,感染性心内膜炎と診断した.初診時の血液検査で心筋逸脱酵素の上昇や局所の壁運動低下はなく,急性冠症候群は否定的であった.同日,泡沫痰を伴う急性心不全を呈したため,緊急手術を行った.左右冠尖と大動脈壁が高度に破壊されており,機械弁による弁置換と自己心膜による大動脈弁輪の再建をした.心内修復後に冠血流を再開したが,前壁運動が極度に低下しており,人工心肺を離脱することができなかった.疣贅による左冠動脈前下行枝(left anterior descending coronary artery; LAD)の閉塞を疑い,再度心停止下でLADに静脈グラフトを用いたバイパス手術を追加した.バイパス追加後の壁運動は改善し,辛うじて人工心肺を離脱することができた.術後脳梗塞を発症し,リハビリを要したが,術後74日目に軽快退院した.退院後に冠動脈の評価を行い,LADに遊離した疣贅によると思われる閉塞を認めた.術前に冠動脈評価はなされなかったが,幸いにもLADの閉塞部より末梢にバイパスが吻合されていた.現在3年2カ月が経過し,感染の再発なく社会復帰している.今回,術中に冠動脈塞栓症を発症し,人工心肺の離脱が困難となった患者に対してバイパス手術を追加したことで救命し得た経験をしたので文献的考察を加えて報告する.