2023 年 52 巻 2 号 p. 93-97
症例は70歳女性.労作性狭心症に対して左内胸動脈と大伏在静脈を使用した心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)が予定された.冠動脈末梢側吻合に先立ち,中枢側吻合デバイスであるEnclose II(Novare Surgical System, Inc, USA)を使用して,大伏在静脈の中枢側吻合を上行大動脈前壁に施行した.同デバイスを抜去した際,上行大動脈外膜下血腫が出現し,経食道心エコーで上行大動脈にflapを認め,医原性大動脈解離と診断した.ただちに大動脈人工血管置換術を追加施行する方針となった.上行大動脈内を観察すると,Enclose II挿入部位に内膜の亀裂を認め,解離発症の原因部位を同定した.上行大動脈人工血管置換術施行後に,冠動脈バイパスを行い手術を終了した.術後経過は良好に推移し,術後12日目の造影CTでは腹部大動脈レベルまでの大動脈解離を認めたが,偽腔は完全に血栓化していた.OPCAB術中の中枢側吻合デバイスに起因した大動脈解離は非常に稀であるが重篤な合併症であり,術中早期診断と迅速な外科的治療の追加が救命のために必要であると考えられた.