2023 年 52 巻 6 号 p. 434-438
症例は72歳,男性.6年前に胸腹部大動脈瘤の診断となり,徐々に瘤径拡大,背部痛等の自覚症状を認めたため手術適応となった.Shaggy aortaを伴っていたが,肺機能不全により開胸手術は耐術困難であり胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR; thoracic endovascular aortic repair)の方針とした.Landing zone確保のために頸部および腹部のdebranchが必要であり,またアクセス血管は細くルート作製が必要であったため,まず腹部4分枝debranch+アクセスルート作成を施行し,2期目に2-debranch TEVARを施行した.TEVARの際にはShaggy aortaによる塞栓性合併症の予防として,脳梗塞予防にFunctional brainisolationを,腹部分枝・下肢塞栓予防にSheathによる物理的なprotectおよび塞栓源のドレナージ,そしてBalloon occlusionを併用した.術後塞栓性合併症は認めず良好な経過を辿った.Shaggy aortaはJapan SCOREやEuro SCOREでは評価されないが,周術期脳梗塞のリスク因子であり,各症例に応じた塞栓症予防の工夫が必要である.