日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告 [大血管]
寒冷凝集素陽性患者に対し軽度低体温循環停止下に全弓部置換術を施行した1例
中尾 優風子久冨 一輝笠 雄太郎田倉 雅之田口 駿介寺谷 裕充中路 俊松丸 一朗三浦 崇
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2025 年 54 巻 1 号 p. 27-30

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抄録

症例は74歳女性.増大傾向を認める大動脈弓部小弯側の嚢状動脈瘤に対して全弓部置換術を予定した.術前血液検査で寒冷凝集素価2,048倍と異常高値を認め,低体温循環停止下での全弓部置換術において低体温時の凝血や復温時の溶血の可能性が危惧された.通常われわれは最低直腸温27℃の中等度低体温体外循環法を用いており,血液内科と協議し術前に患者血液を用いて冷却試験を施行した結果,25℃下での試験管内で凝集反応を生じなかった.この結果について血液内科,麻酔科,人工心肺技師らと協議し,中等度低体温下で手術可能かもしれないが,術中の凝血や溶血は人工心肺トラブルの要因となるため,これを予防し安全に手術を行うために術中体温を30℃以上で管理することとし,最低直腸温30℃の軽度低体温体外循環下に全弓部置換術を施行した.心筋保護液の送液温度も30℃に設定し,30分おきに注入した.循環停止中はintra-aorticballoonocclusion(IABO)カテーテルにて下行大動脈を閉塞させ,大腿動脈送血を行うことで脊髄・腹部臓器の血流を維持した.また選択的順行性脳灌流量は通常の1.5倍量(20ml/kg/min)に設定した.術中に凝血や溶血を生じず,術後は脳神経学的異常所見や心機能低下を認めず良好な結果が得られた.寒冷凝集素高値を示す患者に対しては,その重症度や術式を考慮した上で,個々の症例に応じた人工心肺管理を計画する必要がある.

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