抄録
心筋梗塞は腹部大動脈瘤の術中術後の合併症で最も重篤なものの一つである. ジピリダモール負荷心筋スキャン, 冠状動脈造影により評価を行い, 必要な症例には冠状動脈再建を行う方針を開始した1983年以降と, それ以前の腹部大動脈瘤の待機手術例を比較検討した. 1982年までの前半の10年間の症例は25例で術前併存症としての虚血性心疾患を1例に認めた. 1983年以降の後半の10年間の症例は85例で, 術前併存症としての虚血性心疾患を14例に認め, 全例冠状動脈造影にて評価した. 後半において高血圧や高脂血症などの危険因子もしくは心電図異常を認める32例にジピリグモール負荷心筋スキャン等を施行し, うち8例に冠状動脈造影を施行した. 前半の25例において術後心筋梗塞を2例に認め, うち1例が死亡した. 後半の85例中5例に冠状動脈バイパスを施行した. 後半の85例において術後心筋梗塞は認めなかった. 腹部大動脈瘤手術では積極的な虚血性心疾患対策が必要である.