2000 年 29 巻 6 号 p. 382-385
今回われわれは急性大動脈解離 (DeBakey I型) 術後に発症した大動脈弁閉鎖不全症の1例を経験した. 術中所見にて前回の手術で大動脈基部の解離腔閉鎖部位に使用した Gelatin-resorcin-formalin glue (GRF糊) に一致した内膜側は茶褐色に壊死性様変化を示し, また人工血管との吻合部の一部には内膜剥離が認められた. 手術は Bentall 変法を用い, 左冠動脈には Piehler 法を, 右冠動脈は開口部を閉鎖して大伏在静脈を用いバイパス術を施行した. 病理所見では, 肉眼的に壊死組織様に認められた大動脈壁は変性した大動脈組織であり, また前回使用したGRF糊のゼラチンは認められなかった. 今回, 大動脈弁閉鎖不全症の発症に前回のGRF糊が関与していたと思われるが, その要因のひとつにホルマリンの使用量に問題があった可能性が示唆された.