2021 年 26 巻 1 号 p. 1-10
東日本大震災では多くの歯科医師が身元確認作業に従事したが、体制の不備による数々の問題が指摘され、歯科所見による身元判明例は総身元確認数の7.6%にとどまった。日本は多くの災害を経験し、災害時の身元確認体制について度々改善が求められてきたにもかかわらず、本震災でも身元確認作業における混乱を避けられなかった。本研究ではその要因を追求し、身元確認体制の在り方を考究することを目的に、過去の災害と東日本大震災における歯科身元確認の問題点を比較、再検証した。その結果、記録方法の全国的な不統一や、歯科所見採取に必要な装置や備品の不足、不明確な命令系統など、いずれの災害においても共通した課題が繰り返し挙げられていたことが明らかになった。死因究明先進国と比較すると日本は平時から身元不明遺体が多く、大規模災害時の歯科身元判明率も格段に低い。過去の反省を活かし、身元不明遺体数の減少に向けた対策を早急に講じるべきである。