抄録
市販焼付用陶材(歯冠色陶材とオペーク陶材)6種について熱膨張係数の温度依存性を調べた.昇温過程で測定された陶材の熱膨張係数はガラス転移温度域になると, それより低温に較べて10倍以上高い温度依存性を示すことが明らかにされた.熱膨張の測定からガラス転移温度域になる温度および最大の見かけの熱膨張係数を示す温度が粘度から計算されるひずみ点, 徐冷点とほぼ一致した.板厚2mmの各種平板陶材を焼成温度から放冷, 圧縮空気を吹き付けながら強制冷却したときに陶材表面に生じる圧縮の残留応力は16〜25, 63〜92MPaになることがシミュレーションにより推定された.また, 焼付用合金との接合において不適合応力が生じ始める温度域では, 陶材と合金の熱膨張係数の違いが10×10-6/℃よりはるかに大きくなっており, 陶材のガラス転移温度域での熱膨張係数と粘弾性挙動が残留応力を決める重要な因子になっていることが明らかにされた.