キレート化剤と金属イオンを組み合わせた歯質接着のための試作前処理剤の効果をその脱灰能との関連から検討した.pHを調整したフィチン酸(PYA)の部分置換塩の水溶液, 10%PYA(pH0.68), 10%PYA-2Na(pH1.14), 10%PYA-4Na(pH2.08), 10%PYA-6Na(pH3.52), 10%PYA-8Na(pH6.34)および10%PYA-12Na(pH7.42)の各水溶液で処理後, 3%のフッ化第1錫(SnF2)で処理した牛歯象牙質およびエナメル質に対するPhoto Bond®の剪断接着強さを測定した.そして, その接着強さおよび処理面のSEM観察から試作前処理剤の効果を評価した.象牙質, エナメル質ともに, 10%PYA+SnF2処理から10%PYA-6Na+SnF2処理までは, ほとんど同等の高い接着強さが得られた.象牙質に対しては, 約8〜10MPa, エナメル質に対しては, 約14〜18MPaの接着強さを示した.しかし, スメアー層の残存が認められた10%PYA-8Na+SnF2処理および10%PYA-12Na+SnF2処理では, 接着強さは有意に低下した.スメアー層が除去される程度の脱灰能があれば, 処理液のpH(脱灰能)と接着強さとの間に相関は認められなかった.これは, ボンディング剤中に含有される機能性モノマー, MDPと歯面に固定された錫との化学的な相互作用が接着に寄与していることを示唆する結果と考えられる.