歯科材料・器械
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14 巻, 1 号
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原著
  • 大島 仁知, 亘理 文夫, 小林 洋一, 池田 考績, 下河邊 宏功
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 1-7
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    原子間力顕微鏡の歯科への応用を試み, 無処理の試料を大気中, 水中, 酸溶液中においてエナメル質および象牙質をエッチングしながら同時に観察を行った.液の吸引, 注入に屈曲した翼状針とシリンジからなる治具を使用した結果, 反応前後の変化を同一試料, 同一部位について継続して観察することが可能となった.10%クエン酸溶液浸漬後30秒以内でスメア層が除去され, エナメル小柱, 象牙細管の構造が現われ, さらにエッチングが進行する様子を経時的に観察することができた.
  • 伊藤 仁美, 早川 徹
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 8-16
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    臨床操作の簡略化を目指して, スメアー層を有する象牙質にコンポジットレジンを接着させるボンディング剤の開発を試みた.水溶性の光重合開始剤である2-ヒドロキシ-3-(3, 4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イロキシ)-N, N, N, -トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド(以下QTXと略す)をN-フェニルグリシン(NPG)と組み合わせて使用した.ボンディング剤を研磨象牙質面に作用させ, 乾燥後, 光照射により重合させた.プロテクトライナー(クラレ)を薄く塗布し, シラックスプラス(3M)を充塡し, それぞれを光照射により重合し, 37℃水中1日浸漬後の引張接着強さを測定した.また, 接着耐久性を調べるために, 4℃と60℃を交互に繰り返すサーマルサイクリング2, 000回後の接着強さも測定した.さらに, スクラビング法での接着強さも測定した.NPGエージェントを研磨象牙質面に60秒間塗布し, その後, 30秒間光照射すると, 平均値で約10MPaの良好な接着強さが得られた.また, NPGエージェントを15秒間塗布した場合には, 接着強さは平均値で約3〜4MPaと低い値であったが, 15秒間スクラビングでは約8MPaと向上した.いずれの処理でもスメアー層が残存しているのがSEMより確認された.15秒間スクラビングで処理した場合には, 2, 000回のサーマルサイクリング後でも接着強さは低下しなかった.
  • [セ]見 精介
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 17-23
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は, 光重合型義歯床用レジンの改良に関するもので, その要旨は, シクロホスファゼンオリゴマーをMMAに配合してモノマーを調整し, オリゴマーの配合量と重合体の物性について検討したものである.実験の結果以下のようなことが明らかとなった.1.圧縮耐力は, 配合量が増加しても変化が認められなかった.2.曲げ強さは, 配合量が10〜20wt%で, dryでは120〜123MPa, wetでは117〜119MPaを示したが, 30%以上で下降した.曲げ弾性率は, 配合量が増加するにつれて徐々に上昇する傾向を示し, たわみは, 配合量が30%以上で大きく下降した.3.硬さは, 配合量が増加するにつれて徐々に上昇する傾向を示した.4.吸水量は, 配合量が増加するにつれて, 徐々に上昇したが, 溶解量には変化が認められなかった.5.摩耗比は, 配合量が増加するにつれて徐々に下降する傾向を示した.6.上記の諸性質が良好で, とくに, 曲げ強さおよび硬さの大きいシクロホスファゼンオリゴマーの配合量は10〜20wt%配合した場合であった.
  • 川本 晃也
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 24-36
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    せっこう模型の消毒方法のうち, 粉末と消毒剤溶液とを練和する方法は簡便で臨床への応用が容易であるが, 物性を劣化させないことが必要である.本研究では, 各種消毒剤溶液でせっこう粉末を練和して物性を測定し, 適切な消毒剤溶液の選択を検討した.せっこうは, 普通せっこう, 硬質せっこうおよび超硬質せっこうの各1製品を使用した.消毒剤溶液は, 0.1, 0.5%次亜塩素酸ナトリウム, 1, 000, 10, 000ppm塩素化イソシアヌル酸ナトリウム(TBS), 0.1%ポビドンヨードおよび2%グルタルアルデヒドとした.硬化時間, 硬化膨張, 強さ, 表面粗さおよび引っ掻き硬さを測定した.その結果, 高濃度(10, 000ppm)のTBSおよび2%グルタルアルデヒドの溶液で練和したとき物性が低下した.とくに, 普通せっこうで悪影響が大きかった.各種せっこうとの練和に適した消毒剤溶液は, 0.1〜0.5%次亜塩素酸ナトリウム, 1, 000ppm TBSおよび0.1%ポビドンヨードであった.
  • 藤沢 盛一郎, 門磨 義則
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 37-41
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    抗酸化剤およびその関連化合物の存在下70℃でBPO(1.0mole%)によるメチルメタクリレート重合を行い誘導期間(IP)と初期重合速度(IRP)を示差走査熱量計を用いて測定した.0.1mole%でIPは次の順序になった.2, 6-Di-tert-butyl-4-methylphenol>Eugenol>Phenol>Vitamin E(α-Tocopherol)>Vitamin A.1.0mole%ではPhenolを除き重合が起こらなかった.これは誘導分解したBPOラジカルと抗酸化剤との大きな相互作用を示している.高濃度抗酸化剤がBPOによるMMA重合に及ぼす影響は重合禁止作用ではなく重合遅延作用であった.さらに各種抗酸化剤のアゾビスイソブチロニトリル-MMA重合における影響やDiphenyl-p-picrylhydrazyl(DPPH, フリーラジカル)に及ぼす影響についても研究した.
  • 池田 泰
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 42-51
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    歯科用レジン接着剤の進歩は著しいが, 金属とレジンとの接着物の耐久性は十分とはいい難い.接着物の耐久性に影響を及ぼす一因として, 接着にかかわる材料の熱膨張係数の差により生ずる応力が考えられる.本研究では接着耐久性に及ぼすレジンセメントの影響を明らかにするため, 本研究で新たに試作したレジンを含む4種のセメントを用いて, チタンおよび金銀パラジウム合金とアクリル棒またはステンレス棒との接着を行い, 水中で熱ストレスを加えたときの接着強さの変化およびレジンセメントの性質について検討した.熱膨張係数の大きく異なるアクリルレジンと金属との接着では, 金属同士の場合に比べ, 接着耐久性が大きく低下した.接着耐久性はセメントによってかなり異なり, 弾性率の大きなコンポジットレジン系セメントの耐久性が最も劣っていた.弾性率, 吸水率が比較的小さな試作したフッ素系レジン(G801/MMA-TBB)の耐久性が最も優れていた.試作レジン硬化物のDSC分析およびポリマーの分別とその赤外吸収スペクトル分析結果から, 硬化物はPMMAおよびフッ素系ポリマーG801とPMMAのブロックポリマーから成っていることが推定され, このような構造, 組成が優れたセメント強度, 接着耐久性と関連している可能性が示唆された.
  • 渡辺 孝一, 大川 成剛, 宮川 修, 中野 周二, 本間 ヒロ, 小林 正義
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 52-58
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    チタン湯流れの時間による変化を, 板状のキャビティの場合について検討した.鋳造体表面と断面の湯流れを観察することにより, 著しく非定常な流れであることが分かった.厚いキャビティの場合(1.4mm)には, 表面凝固層が形成された後, 流入溶湯はキャビティを満たした後に凝固する.その結果, 凝固層の殻の内側に大きな欠陥を生じやすい.薄いキャビティの場合(0.55mm)は, 初期流入溶湯の凝固層により流路断面が非常に狭くなり, 後から流入した溶湯は大きな抵抗のため同じ流路を進めず, 抵抗の比較的小さい部位に新たな流れが生じる.したがって大きな内部欠陥は生じにくいが, その代わり鋳込み不足が生じやすい.いずれの形状のキャビティにおいても, 流れの非定常性は欠陥の生成に深く関与していると結論された.
  • 平林 茂, 薄井 秀樹, 平澤 忠, 河野 篤
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 59-68
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    キレート化剤と金属イオンを組み合わせた歯質接着のための試作前処理剤の効果をその脱灰能との関連から検討した.pHを調整したフィチン酸(PYA)の部分置換塩の水溶液, 10%PYA(pH0.68), 10%PYA-2Na(pH1.14), 10%PYA-4Na(pH2.08), 10%PYA-6Na(pH3.52), 10%PYA-8Na(pH6.34)および10%PYA-12Na(pH7.42)の各水溶液で処理後, 3%のフッ化第1錫(SnF2)で処理した牛歯象牙質およびエナメル質に対するPhoto Bond®の剪断接着強さを測定した.そして, その接着強さおよび処理面のSEM観察から試作前処理剤の効果を評価した.象牙質, エナメル質ともに, 10%PYA+SnF2処理から10%PYA-6Na+SnF2処理までは, ほとんど同等の高い接着強さが得られた.象牙質に対しては, 約8〜10MPa, エナメル質に対しては, 約14〜18MPaの接着強さを示した.しかし, スメアー層の残存が認められた10%PYA-8Na+SnF2処理および10%PYA-12Na+SnF2処理では, 接着強さは有意に低下した.スメアー層が除去される程度の脱灰能があれば, 処理液のpH(脱灰能)と接着強さとの間に相関は認められなかった.これは, ボンディング剤中に含有される機能性モノマー, MDPと歯面に固定された錫との化学的な相互作用が接着に寄与していることを示唆する結果と考えられる.
  • 中村 哲也, 中村 健吾, 後藤 真一
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 69-86
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    日本における健康保険用金銀パラジウム合金中の金含有量はJIS T6106によって12mass%に定められている.この論文は, 鋳造用金銀パラジウム合金の金含有量を増加することによる合金の機械的性質および耐変色性に与える影響を明らかにするために行ったものである.すなわち, パラジウムを20%に一定し, 金を12, 16, 20%に, 銅を5, 10, 15, 20%に変えた12種の合金を溶製し, 歯科精密鋳造法に準じて鋳造した試験片の機械的性質と耐変色性を調べた.軟化熱処理(800℃, 3min溶体化処理後水中急冷, Q)・硬化熱処理(450→250℃/30min炉冷, H)時の引張強さ, 伸び, ビッカース硬さ(Hv)は主として銅含有量によって変化し, 一般に, 銅含有量が増すほど, 引張強さ/耐力/弾性限およびビッカース硬さが増加し, 伸びが低下する.金量を増すと僅かに耐変色性が増加し, 金20%, 銅約12%以下の組成範囲で変色試験後のL*が70以上となること, 20Au-5Cu-20Pd-55Ag合金を除いて, 液相点は1, 100℃以下であること, 銅量が増すにつれて, 軟化熱処理時のα固溶体の格子定数は小さくなり, また, 金量を増加するとα化の温度が低下することなどを示した.
  • 浅岡 憲三, 今 政幸, 河野 文昭
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 87-92
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    市販歯科用陶材, キャスタブルセラミックスの熱拡散率をレーザーフラッシュ法により測定した.すなわち, 真空に保った電気炉内の試料を加熱しながら, 連続的に室温から700℃の温度範囲で, ASTMの規格にしたがい, 熱拡散率を測定した.その結果, アルミナを多く含むコア陶材では温度依存性が高く, 室温では熱拡散率が1.9mm2s-1と高いが, 700℃では1.0mm2s-1であった.ここで調べたその他の陶材では, 温度依存性は低く, 全ての温度域で, 0.5〜0.8mm2s-1であった.また, キャスタブルセラミックスでは0.4〜0.8mm2s-1であり, 温度依存性は低かった.そして, 結晶化することにより熱拡散率が変化した.加熱/冷却過程で生じる材料内の熱応力のモデル計算から, 熱応力は材料の熱膨張係数, 弾性率に比例し, 熱拡散率に反比例することが明らかにされた.以上のことから, 組成, 組織を抑制して陶材の熱拡散率を低くすることにより, 高い使用応力を発生できる歯科用セラミックスが開発できることが示唆された.
  • 山我 貴之, 平 雅之, 佐藤 裕二, 赤川 安正, 若狭 邦男, 山木 昌雄
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 93-100
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    4種類の市販光重合型歯冠用硬質レジンについて, GC, HPLCおよびLC-MSを用いたモノマー成分の組成解析と焼却法, XRDおよびSEMを用いたフィラー成分の組成解析を行い, 以下の知見を得た.1.モノマー成分の組成解析は, 全試料がCQを光重合開始剤として, そしてウレタンモノマーをベースモノマーとして配合していることを明らかにした.希釈モノマーは, 試料間で異なっていた.2.フィラー成分の組成解析は, 全試料が有機複合化された超微細なシリカ粉体をフィラーにして配合していることを明らかにした.
  • 土居 寿, 中野 毅, 小林 郁夫, 米山 隆之, 浜中 人士
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 101-108
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    チタンは耐食性および生体適合性にすぐれ歯科用金属材料として注目されてきた.歯科材料の力学的性質は, 引張試験や曲げ試験, 硬さ試験などによって強さや耐力, 硬さなどが評価されている.これらの試験による結果は, 種々の力学的性質のうちの静的なもので, マクロな性質を知るには有用であるが, 実際に使用する環境を考えると, これらの試験に加えて繰り返し荷重などによる疲労試験を行う必要があると考えられる.そこでこの研究では, 鋳造したチタンの疲労試験を行い, チタンとコバルト・クロム合金と比較することによって, 鋳造したチタンの歯科材料としての力学的性質について検討した.チタンとコバルト・クロム合金ではクラックの発生と進展に差があり, チタンには表面に小さなクラックが多数発生するのに対し, コバルト・クロム合金では大きなクラックが内部まで進展する.疲れ強さの観点から, 鋳造した補綴物を成人が10年間連続して使用するためには, 引張強さの約5分の1の応力で設計する必要がある.この応力は弾性限度以下であり, 弾性領域で使用し続けた場合でも性質の劣化や破折の危険性があるということを示唆している.
  • 戸井田 哲也, 渡辺 昭彦, 中林 宣男
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 109-116
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    牛歯象牙質を一定条件にて歯科用バーにより研削し, 2-メタクリロオキシフェニルリン酸(Phenyl-P)を20%, 2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を30%溶かした水溶液(20P-30H)で象牙質を60秒間処理した後, 5%Phenyl-P/TEGDMA光重合型ボンディング剤を接着し, スメアー層が研削象牙質への接着に与える影響を検討した.この系での接着強さは5-8MPaと低かった.接着試料の引張りによる破断面および接着試料の断面のSEM, TEM観察による解析により, スメアー層の機械的性質が弱く, 拡散, 重合したポリマーで十分にそれを補強しきれないことが分かった.一方10-3溶液でスメアー層を除去し, 4-META/MMA-TBBレジンを接着させた場合には, そのスメア層の性質にかかわらず, 14MPa以上の安定した接着強さが得られた.本研究で用いた20P-30Hのようなself-etching primerを利用する場合, スメアー層の性質に接着が大きく左右されることが分かった.
  • 北迫 勇一, 山田 敏元, 二階堂 徹, 原田 直子, バロー F マイケル, 猪越 重久, 高津 寿夫, 増原 英一
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 117-130
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    1種の試作品を含む5種のレジンセメントに関して, そのエナメル質と象牙質に対する引張ならびに剪断接着強さについて測定した.また, それらの象牙質/セメント接合界面, ならびに両接着試験後の破断面についてSEM観察を加え, 比較検討した.その結果, 引張ならびに剪断試験における, 各種レジンセメントのエナメル質と象牙質に対する接着強さを比較すると, MASA Bondを除く4種のセメントで, エナメル質に対する接着強さが象牙質に比較して有意に高い値を示した.また引張ならびに剪断試験の比較を行ったところ, エナメル質では全てのセメントで, 剪断接着強さのほうが引張接着強さに比較して有意に高く, また象牙質では, MASA Bondのみ, 剪断接着強さのほうが引張接着強さに比較して有意に高い値を示した.各種レジンセメント-象牙質接合界面のSEM観察からは, 全ての製品でレジン含浸層が認められ, その幅は各レジンセメントにより様々であった.さらに, 破断面のSEM観察より, 引張ならびに剪断試験時における破壊過程の違いを認めた.
  • 宮崎 隆, 藤森 伸也, 李 元植, 板橋 勇人
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 131-135
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    近年, 骨に対する良好な親和性を有することから, チタンがインプラント材料として広く用いられている.市販インプラントの表面をSEM観察したところ, 骨接触面の微小形状は種々のものがあり, これはインプラント製作工程に影響されている.本研究では, ワイヤ放電加工で処理したチタン表面の微小形状を, 市販のインプラントに採用されているプラズマコート処理面および旋盤による機械的切削面と比較検討した.プラズマコート処理面と切削面の表面粗さ(Rmax)は30.1μm, および2.6μmであった.一方, ワイヤ放電加工表面の微小形状は用いた電気加工条件の影響を受け, 電気条件を上げると表面粗さが大きくなり, Rmaxは7〜22μmの間であった.切削面は方向性のある微小形状を有していたが, ワイヤ放電加工面とプラズマコート処理面はともに方向性のない微小形状を有していた.ワイヤ放電加工面は方向性はないが凹凸の高さが比較的均一でコントロールされているのに対し, プラズマコート処理面はより不規則な表面で多孔質であった.
  • 板橋 勇人, 宮崎 隆, 藤森 伸也, 李 元植
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 136-141
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    異なった微小表面形状を有するチタン表面上での骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)の初期の動態をin vitroで検討した.方向性のある微小表面形状はチタン表面を#1500, #400, あるいは#60のエメリー耐水研磨紙で研磨して作製した.一方, 方向性のない表面性状はワイヤ放電加工により作製した.試験片の表面粗さ(Rmax)は#1500研磨面, #400研磨面, #60研磨面, ワイヤ放電加工面でそれぞれ0.8, 2.6, 8.0, 20.9μmであった.各試験片表面上で60分間細胞を培養し, 付着細胞の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定することにより, 各表面上での細胞付着率を求めた.その結果, 細胞は研磨面よりも, ワイヤ放電加工面上で有意に高い付着率を示した.また3種類の研磨面内では, 表面粗さが大きいほうが高い付着率を示す傾向が認められた.付着した細胞形態をSEM観察したところ, ワイヤ放電加工面上では, 60分間で既に細胞が突起を不規則に伸展させ, 凹凸面上に橋かけをしているような像が観察された.これらの所見は, チタンの表面性状が細胞の動態に影響していることを示し, さらに長期的な細胞の増殖, 分化についても検討する必要があると考えられた.
  • 李 元植
    原稿種別: 本文
    1995 年14 巻1 号 p. 142-154
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    チタンは優れた耐食性と生体親和性を有するため生体材料に利用されているが, 骨固定用プレートや歯科用インプラント等, 機械的強度を要求される用途には必ずしも十分ではない.本研究では, チタン粉末を用いて大気中で焼結可能なプラズマ放電焼結法(PAS)を利用し, 主として酸素を均一に固溶させて機械的強度を高めたチタン焼結体の試作を検討した.また, 焼結性を高めるために微量のパラジウム粉末の添加を試みた.チタン粉末の粒径(#350, 235, 100)と焼結エネルギーである焼結電流(2800Aから4000A)を変化させて約40gの粉末をグラファイトモールド中で大気雰囲気で焼結を行った.焼結は僅か数分で完了し, チタンの理論密度の99%以上の良好な焼結体が得られた.焼結体の引張り・曲げ強さの最大値はコントロールに用いたJIS H4600 2種チタン材の2倍近いものが, 最短150秒の通電で得られたが, 伸びは10%前後であり, コントロールよりも小さかった.チタンにパラジウム粉末を添加した場合, 液相点が低下し, 低エネルギーで効率的に焼結を行えることが判明した.ごく少量のパラジウム添加により, 焼結性が向上し焼結時間が短縮し, かつ伸びはTi粉のみの場合よりも大きな値を示した.パラジウムの添加量が多くなるにつれ合金相が多くなるので, 引張り・曲げ強さは増大したが, 伸びは低下した.PASにより高強度, 高密度で靱性のある高純度チタンブロックの作製が可能であったため, 放電加工やミリング等の二次加工により生体材料への応用が可能になると考えられる.
  • 藤森 伸也
    1995 年14 巻1 号 p. 155-168
    発行日: 1995/01/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    チタンの表面を方向性のない凹凸面, あるいは方向性のある平滑面になるように準備した.方向性のない凹凸面はワイヤ放電加工(Wire-EDM)およびプラズマコーティング(Plasma)で作製した.平滑面は#1500のエメリー研磨紙で研磨することにより作製した(Emery).チタンの表面性状を, 表面粗さの測定, SEM観察, XPS分析およびX線回折分析により表面分析した.マウス由来の骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を各チタン試験片上に播種し, 15日間培養した.細胞増殖のマーカーとしてDNA量を, 細胞分化のマーカーとしてアルカリフォスファターゼ(ALP)活性およびCaとPの生成量を測定した.コントロールとして培養用のガラス板(TCP)を用いた.Wire-EDM, Plasma, Emeryの表面粗さ(Rmax)はそれぞれ20.5, 31.4, 0.80μmであった.Wire-EDMは多数の小さな凹凸の集合した不規則形状を有していたが, くぼみの深さは比較的均一にそろっていた.一方Plasmaは凹凸がより不規則であり, 多孔質形状を有していた.Wire-EDM表面にはPlasmaやEmeryよりも有意に厚い酸化皮膜が生成しており, それらは表層から内部へ向かってTiO2, TiO, Ti2Oで構成されていた.細胞のDNA量は全ての試験片上で経時的に増加したが, 9日目以降はWire-EDMとPlasmaでEmeryおよびTCPよりも有意に増加した.今回用いた細胞は増殖および分化することによりALP活性を発現することが認められている.DNA 1μm当たりのALP活性は, 9日目以降Wire-EDMとPlasmaでEmeryおよびTCPよりも有意に増加した.15日目のWire-EDMおよびPlasma上の細胞が生成したCa/P比は1.26, 1.28であり, EmeryおよびTCPよりも有意に上昇していた.以上の所見より今回用いた骨芽細胞様細胞は, 同じチタン試験片上でも方向性のある平滑面よりも方向性のない凹凸面上で増殖が加速され, 細胞分化も活発になっていることが認められた.細胞の形態観察によると, Wire-EDMやPlasmaでは, 細胞は凹凸の縁に橋渡しをするように突起を成長させながら伸展していくことが認められた.従って細胞の形態の変化が分化を誘導したものと考えられる.今回の実験結果より, インプラントの骨接触面には方向性のない凹凸面が好ましいことが示唆されたが, 最適なミクロ形状を付与するためにさらに研究が必要である.
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