2018 年 29 巻 1 号 p. 22-33
発達障害に関する啓発資料がさまざまな団体によって作成されているが,その読後の印象は資料によって異なるように見受けられる。本研究の目的は,資料上のいかなる記述方法が,発達障害児者との交流に対する読み手の態度に影響するかを特定することである。実験に先立ち既存の啓発資料を分析し,その結果から,本実験の刺激では具体性の高低と関わりの記述の有無の2要因を操作することを決定した。実験ではまず,実験参加者は,発達障害様の特徴を持たない学生(以降「普通学生」)に対する交流抵抗感を回答した。次に実験参加者は,4種類の資料のうちの1つを読んだ後(被験者間要因),発達障害様の特徴を持つ学生(以降「特徴的学生」)に対する交流抵抗感を回答した。回答に不備のない218名分の回答を分析した。混合モデル分析の結果から,第1に,具体性が高い資料の読み手ほど特徴的学生と一緒に何かをする場面で抵抗感が低いこと,第2に,関わりに関する記述があっても特徴的学生に対する交流抵抗感は高まらないことが示された。また,結果は,特徴的学生との本音で付き合う場面では男性の方が女性よりも交流抵抗感が低いこと,普通学生に対する交流抵抗感が低い者ほど特徴的学生に対する交流抵抗感も低いこと,しかしその傾向には性差があることも示した。結果について社会心理学的知見を踏まえながら考察し,さらには,発達障害に関する資料作成の指針を提案した。