2018 年 29 巻 1 号 p. 34-47
近年,アタッチメント安定型の母親が乳児のネガティブ情動表出に対して行いやすい共感的反応の一種である「調律的応答」へ着目する向きが高まっている。これに関して蒲谷(2013)は,生後7ヶ月の乳児のネガティブ情動表出に対してアタッチメント安定傾向の母親が「ポジティブ表情を伴った心境言及」を行いやすいことを見出した。本研究では40組の新たな母子サンプルを対象に,歩行開始期乳児(14ヶ月齢児)の不従順行動(片付け場面においておもちゃを新たに箱から出す等)によって生じる母子間葛藤状況においても,アタッチメント安定傾向の母親が調律的応答を行うのかどうかが縦断的に検討された。乳児の情動表出に対する母親の表情変化および発声発話による反応を,対象児が8ヶ月齢時,14ヶ月齢時に観察した。回帰分析の結果,歩行開始期の乳児(生後14ヶ月)の怒り情動および不従順行動を伴う母子間葛藤状況において,アタッチメント安定傾向の母親は「無表情のままの心境言及」をしやすいことが示された。またこの傾向は,歩行不可期の乳児(生後8ヶ月)のネガティブ情動表出に対する母親の応答と縦断的に一貫しており,アタッチメントスタイルが安定的な母親は継続的に子どものネガティブ情動を共感的に言語化できることが示唆された。