2019 年 30 巻 1 号 p. 11-22
東日本大震災および福島第一原子力発電所事故は,幼い子どもを預かり,育ちを支える保育現場に多大なる影響を及ぼした。本研究の目的は,地震災害,放射線災害下の保育実践上の負荷に対するレジリエンス要因として保育者効力感に着目し,精神的健康との関連について明らかにすることである。調査は,発災後1年の時点において,福島県A市下の私立幼稚園全20園の幼稚園教諭を対象として自記式質問紙調査を実施し,76名から回答を得た。その内,回答不備があった者を除く73名を分析対象者とした。調査内容には,保育者効力感,地震・放射線災害保育負荷,精神的健康が含まれた。分析の結果,管理職は保育経験が短い群に比べて,放射線問題をめぐる同僚との認識相違による負荷をより強く感じていたことが示された。保育経験が長い群,短い群の2群による多母集団同時分析では,保育経験に関わらず,保育者効力感が地震災害,放射線災害下での保育負荷を抑制することを介して,あるいは直接的に抑うつの抑制要因となることが示された。本研究の結果から,今後の災害発生への備え,あるいは災害時の保育者支援として,管理職を支援する園を超えたピアサポート・ネットワーク,および各園での研修,初任期保育者の研修等で活用できる災害時保育を含めた研修プログラム開発の有用性が考えられた。