生活環境の中にセンサやコンピュータが埋め込まれることにより,人びとの生活は大きな変化を遂げた。本論文ではこうした変化の中でも特にセンサによる行動認識技術の発展が発達心理学の方法論にもたらすインパクトについて検討する。この技術は,多様なセンサからの情報に基づいて人間の行動の種類を自動的に識別するためのものである。この技術を用いた発達科学や発達心理学領域における先行研究を,2つの軸で整理した。一つがセンサを設置する場所(環境か,人間か)であり,人間に装着させた研究はさらに個人を単位とするものと集団の変化を単位とするものに分けられる。もう一つが研究目的であり,発達理論や発達モデルの構築と,発達・保育・教育支援という2つに整理できる。幼稚園での自由遊び集団構造の長期的変化過程を追った筆者らによる研究も含めて先行研究を概観した上で,センサによる行動認識技術が発達心理学にもたらす意義について,(1)毎日の生活で起こる出来事が子どもの発達過程にもたらす効果の把握,(2)観察の困難な対象の調査可能性,(3)調査結果のフィードバックまでの期間の短縮を挙げることができた。一方で,この手法を採用することにより新たに生起する問題点としては,(1)認識精度,(2)過剰な種類のセンサの利用,(3)プライバシー保護,(4)容易なフィードバックが保育・教育実践に与える影響が挙げられた。