発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
31 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集序文
特集
原著(依頼)
  • 長滝 祥司
    2020 年 31 巻 4 号 p. 171-182
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    本論の最初のテーゼは,「世界やそのなかの出来事,事物などに関するわれわれの認識はすべて媒介されている」というものである。哲学の歴史を振り返ると,世界や事物を認識するさいにそれを媒介するメディアは,志向的形質や心的表象,言語や数学など,多くのものがあった。とくに,ガリレオが世界を捉えるメディアを数学としたことで,近代の科学的世界像が登場することとなった。また,科学技術が重要な認識のメディアとなったのは,ガリレオが望遠鏡を手にしたときである。現代のディジタル・デバイスも,人間の認識や行動を形成するメディアであるという意味でガリレオの望遠鏡の末裔である。本論の目的は,人間の認識と行動をメディアという観点から捉え,その文脈のなかにディジタル革命を位置づけること,ディジタル革命が社会にもたらしつつある事態について哲学的観点をふまえて分析したうえで,「傷つきやすさ」という概念に依拠して道徳の起源に解明の光をあてること,である。以上の作業をつうじて,ディジタル・メディアの今後のあり方について,ささやかな提言を行う。

  • 坂田 陽子
    2020 年 31 巻 4 号 p. 183-189
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    デジタル化が進む中で,実際に体験しなくてもデジタル機器やコンテンツから様々な情報を得て,その知識を実体験に生かすことができるようになった。では様々な知識が未熟な時期の子どもはデジタルデバイスから知識を得て,それらの知的な概念を形成できるのであろうか。本稿ではペット型ロボットとかかわることで幼児は生物概念を獲得できるか検討した。研究紹介1では,ロボットに静動の2条件を設けた結果,幼児は静止の場合は無生物,自動の場合は生物ととらえる行動が見られた。研究紹介2では,幼児が1ヶ月間ロボットを生き物の代わりとして疑似的に飼育したところ,初期は生物として接する発話や行動が多く見られたが,2週間で飽きてロボットにかかわらなくなり,生物に関する教育的教示の効果も見られなかった。2つの研究から,ロボットと子どもの接する時間が短時間で,また「動き」の有無が一瞬で入れ替わるような場合はロボットの「動き」は生物を感じさせる。一方,長時間になるとその「動き」はかえって単調で生物を感じさせなくなると考えられた。「動き」が必ずしも生物概念の獲得の一助となるわけではなく,ロボットの動きの質を検討することが重要であると結論付けられた。

  • 伊藤 崇, 中島 寿宏, 川田 学
    2020 年 31 巻 4 号 p. 190-200
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    生活環境の中にセンサやコンピュータが埋め込まれることにより,人びとの生活は大きな変化を遂げた。本論文ではこうした変化の中でも特にセンサによる行動認識技術の発展が発達心理学の方法論にもたらすインパクトについて検討する。この技術は,多様なセンサからの情報に基づいて人間の行動の種類を自動的に識別するためのものである。この技術を用いた発達科学や発達心理学領域における先行研究を,2つの軸で整理した。一つがセンサを設置する場所(環境か,人間か)であり,人間に装着させた研究はさらに個人を単位とするものと集団の変化を単位とするものに分けられる。もう一つが研究目的であり,発達理論や発達モデルの構築と,発達・保育・教育支援という2つに整理できる。幼稚園での自由遊び集団構造の長期的変化過程を追った筆者らによる研究も含めて先行研究を概観した上で,センサによる行動認識技術が発達心理学にもたらす意義について,(1)毎日の生活で起こる出来事が子どもの発達過程にもたらす効果の把握,(2)観察の困難な対象の調査可能性,(3)調査結果のフィードバックまでの期間の短縮を挙げることができた。一方で,この手法を採用することにより新たに生起する問題点としては,(1)認識精度,(2)過剰な種類のセンサの利用,(3)プライバシー保護,(4)容易なフィードバックが保育・教育実践に与える影響が挙げられた。

  • 日下 菜穂子, 末宗 佳倫, 下村 篤子, 上田 信行
    2020 年 31 巻 4 号 p. 201-212
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    変化の激しい時代に,対話を通して人生を統合し,周囲との関係性の中に意味を創り出す,生涯発達の過程とも重なる創造的な学びの場が必要とされている。本稿では,2020年から全国の小学校で必修化されるプログラミング教育を,地域住民や多世代が主体的に関わることのできる学習機会と捉え,高齢者と大学生が小学生のプログラミング教育を支援する協調学習の場を設計した。この実践の報告を通して,コンピューターを使って多世代が学ぶ場において,参加者が創造的思考をはたらかせていきいきと関わりあう環境条件を探索した。さらに,プログラミング教育を介して多世代で学ぶ発達的意味を探るために,高齢者と大学生における参加による効果検証を試みた。結果からは,多世代が創造的思考をはたらかせる学習環境には,1)誰もが教える人になる利他的な目的の共有,2)自由に役割を選択できる多層な活動の構造,3)テクノロジーを使う均等な機会の提供が重要な要素であることがわかった。プログラミング教育を介して,多世代が参加する協調学習の効果の把握には,個別の参加目的に応じた柔軟な評価法の検討が必要であることが明らかになった。

原著
  • 山本 信
    2020 年 31 巻 4 号 p. 213-225
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,幼児・児童において,情動表出の影響の理解および表情表出の巧緻度が,実際の場面における表情抑制とどのように関連しているかを明らかにすることを目的とした。調査は,年中児,年長児,小学1年生の計101名を対象として,3つの課題を実施した。表情抑制課題は2名で行うトランプゲームにおける「ジョーカーを引いた時の表情変化」に着目し実施した。情動理解課題は,仮想場面を用いて「悲しみの情動表出の肯定的影響」および「喜びの情動表出の否定的影響」について対象児に尋ねた。表情表出課題は,4種類の情動(悲しみ,喜び,怒り,驚き)について,それぞれ2種類の強度(とても,少し)で,計8種類の表情の表出を求めた。その結果,表情抑制課題における表情抑制得点は,年齢を統制変数とした場合でも,情動理解得点と表情表出の巧緻度得点の影響を受けて高くなることが明らかになった。本研究から,幼児・児童の実際の場面における表情抑制の発達について,従来の研究において示されてきた「年齢による抑制の発達」の背景には情動表出の影響の理解と表情表出の巧緻度の発達が重要な要因としてあることが示唆された。

  • 垣花 真一郎
    2020 年 31 巻 4 号 p. 226-235
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    幼児の仮名文字の読み誤りパターンに影響する文字要因と,その習得過程における変化を検討した。研究1では,国立国語研究所(1972)が公開している幼児の読み誤りデータを用い(1)対象文字と誤反応としての文字音の対(以下,正誤対)の発生回数の変動に対する正誤対の音韻類似度,形態類似度の影響に関する検討と,(2)正誤対の発生回数が非対称となる事例(例 ぬ–ね:240回,ね–ぬ:30回)の原因を検討した。(1)については,全2068対を低発生,中発生,高発生の3区分に分け,この区分を目的変数,子音類似度,母音類似度,形態類似度を説明変数とした順序ロジスティック回帰分析を行った。その結果,3変数ともに独立した寄与が認められたが,形態類似度の寄与の程度が他の2変数を大きく上回っていた。また,(2)に関しては,発生回数の大きい正誤対における誤文字は正文字に比べて有意に出現頻度が高く,五十音図の掲載順が早いということが分かった。このことは熟知性が低い文字が,熟知性が高い文字に間違えられやすいということを示唆する。研究2では,近年採取されたデータを用いて,幼児の文字習得状況と読み誤りの関係を検討した。その結果,形態類似型の読み誤りパターンは,習得前期に多く見られ,形態・音韻類似型の誤りは習得後期に多くなることが明らかとなった。以上を踏まえ,読み習得における形態的要因,音韻的要因の役割を論じた。

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