2021 年 32 巻 3 号 p. 134-147
本研究の目的は,社会文化的アプローチの観点から知的障害生徒の授業参加の特徴を捉え直すことにある。筆者らは,自立活動の授業において軽度知的障害のある生徒に司会の役割を付与し,電子黒板を用いて支援を行った。5回の授業における2名の対象生徒と他者との相互行為をビデオカメラで記録し,対象生徒の教室談話における参加の仕方についての変化,生徒自身の行為の自覚,他者による行為の意味づけに注目して教室談話分析を行った。分析の結果,対象生徒が教室談話を主導するようになる過程で,環境に含まれる要素や他者との関係の変化が生じていたこと,対象生徒の司会者としての自覚が生じていたこと,対象生徒が聞き手の生徒から司会者としての承認を受けていたことが明らかにされた。これらの結果から,知的障害生徒の参加を個人的な指標に注目して評価するのではなく,授業参加をダイナミックな過程として捉えることで,知的障害生徒の多様な発達の筋道を肯定的に捉えることが可能となることが示唆された。