抄録
【要旨】左開胸下で行う下行大動脈人工血管置換術では,脳保護や肺出血を防止することが重要である。今回,慢性解離性大動脈瘤の2症例の体外循環法や術中および術後経過を検討し,脳保護や肺出血に関して考察したので報告する。2例とも,経大腿静脈右房脱血,大腿動脈送血にて行い,膀胱温25℃で循環停止を行った。1例目は,主肺動脈脱血にて2本脱血とし体外循環を確立したが,2例目は,肺動脈脱血を断念した症例で約4,500mlの多量の肺出血を起こし,長期間の人工呼吸器管理を要した。両症例とも術後覚醒が第2病日で脳神経学的合併症はなかったことから脳保護が可能であった。また,主肺動脈脱血ができなかった症例で多量の肺出血を起こしたことから,体外循環中の高い肺動脈圧の持続による肺鬱血が,肺出血の主要な原因になりうることが示唆された。