教育心理学研究
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原著
子どもの文化的アイデンティティ形成における親の視点と役割の変遷
―日本に住む異文化間の親を対象としたインタビュー調査より―
蔵本 真紀子
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2022 年 70 巻 2 号 p. 146-162

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抄録

 本研究では,日本で思春期以上の子どもを育てている国際結婚夫婦26名に面接調査を行い,子どもの文化的アイデンティティの発達過程を親の視点から探り,子どもと親が経験した課題,そして親の子育てのアプローチの軌跡を検討することを目的とした。データの分析には,グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用した。その結果,アイデンティティの発達に影響を与えるさまざまな要因,文化的アイデンティティの発達と言語発達のパターン,そして子どもが経験した困難が浮き彫りになった。親については,文化継承,いじめ・溶け込みにおける闘い,安全基地としての役割,自律性の促進のカテゴリーが抽出された。獲得された文化的アイデンティティは様々であるが,子どもがアイデンティティに充実感を覚える最大の要因は親から尊重され見守られているという実感であることがうかがえた。また子どもが幼少期に活発的だった文化継承について,成長と共に子どもが次世代の文化継承の担い手になっていくという世代交代が示唆された。重要な点は,異文化間の子どもたちが文化的アイデンティティを育むための単一の方法があるわけではないこと,そして異文化間に育つ子どもたちと親の独自のニーズや課題を把握することがますます求められることである。

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© 2022 日本教育心理学会
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