2024 年 72 巻 3 号 p. 157-168
講義の板書が,教員の発話と付随する行動,および,大学生のノートテイキングに及ぼす影響を検討した。参加者は大学生24名であり,無作為に4群(講義1から4)に割り振られた。独立変数は板書の有無であった。実験群(講義2, 3)は講義の前後半で板書をありからなしの状態(口頭のみ)に切り替え,対照群(講義1, 4)は前後半で板書を用いた。ノートテイキングと板書は書字の1画,教員の発話は1モーラを単位として反応を測定した。主な結果として,板書あり条件はなし条件より発話速度が毎分約50モーラ少なく,教員の指さしや移動が多かった。時系列分析によれば参加者の21名は板書から60秒以内にノートをとる反応を生じた。板書に含まれた語の筆記率は,後半の水準では対照群が実験群より有意に高かった。参加者が筆記した総画数や板書の図式をノートに採用する程度はばらつきがみられた。結果より,板書は教員の発話速度を低下させ,身体動作を増し,英単語や説明のための例の筆記を維持させることが示唆された。質問紙の回答からは,ノートをとる動機づけが筆記量やノートのとり方に影響を及ぼす可能性が考えられ,今後の検討課題とされた。