抄録
この研究は中学生のOA, A, UAが, 課題定位と自我定位の2種の動機づけ教示のもとで, 言語材料の記憶にどのような差異をもたらすかを確かめるためになされたものである。なおこの場合実験者が被験者と知りあい関係にある教師であるか否かによって起こると考えられる動機づけ教示の効果の違いとも関連させて検討がなされた。はじめに立てた作業仮説は一部を除き, 次のようにほぼ立証された。
(1) 動機づけの強さに関する被験者の自己評定および復習の有無に関する自己報告の結果を総合すると, 教師の実験者による自我定位的動機づけ教示のもとで, 自我包含的構えをとる被験者がもっとも多くなる。教師でない実験者による自我定位, 教師の実験者による課題定位の順でこれに続き, 教師でない実験者による課題定位のときにもっとも低い動機づけとなる。またOAはUAよりも学習後の復習の習慣においてまさる傾向がある。しかし実験事態における動機づけの強さでは, 自己評定に関するかぎり, 教師でない実験者による自我定位の場合を除き, OAとUAの間に有意な差がみられない。
(2) いずれの動機づけ教示のもとにおいても, 学習直後の再生成績はOAがもっともよく, A, UAの順でこれに続いている。この傾向は24時間後の把持検査の成績においても変わらない。 (3) いずれの実験者のもとにおいても, 学習と把持の成績は, 課題定位のそれよりも自我定位のそれの方がまさる。しかしその差はOAよりもAとUAにおいて顕著である。
(4) いずれの成就値群においても, 課題定位と自我定位の間の再生成績の差は'教師の実験者のときよりも, 教師でない実験者のときにより大きくなる。
すべての教示条件におけるOA群, および教師でない実験者による自我定位の各群において, 把持量の有意な減少が認められなかった。OA群は正答率が高くて成功感を伴ないやすいこと, 教師でない実験者による自我定位では, 教師の実験者による自我定位ほどに緊張が過度にならないことなどがその原因と推定された。また教師の実験者による自我定位のA, UA両群において把持量の減少があったことは, 過度の緊張により, 再生禁止の回復がおくれたためと解釈された。
UAがOAよりも, 実験者が教師か否かによって再生成績に受ける影響が大きいであろうという推測は, 確証を得るに至らなかった。