教育心理学研究
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母親から子どもへのフィードバックの子どもの行動の変化に及ぼす効果
古畑 和孝鈴木 百合子
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1971 年 19 巻 3 号 p. 152-162

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抄録

筆者らは認知的均衡理論の中でも, 特にNewcombの枠組みに基づき, 母-子 (娘) にとって共通して関心のあり, かつ重要と認知される子どもの行動に関して, 母親から一定のフィードバックを子どもに行なった場合, それが子どもの認知・態度・行動にどのような変化をもたらすか, そうしたフィードバックの効果を明らかにする目的をもって, 一連の研究を行なった。
具体的には, まず予備調査の結果の分析に基づいて選出された6領域にわたる子どもの行動に関する50項目の共通の設問につき, 子どもに対しては, 自分自身による評定 (子-I) および母親の子どもの行動の評価についての認知の評定 (子-II) を求め, また母親に対しては, 同一の設問につき, 現実の子どもについての評定 (母-I) および理想の子どもについての評定 (母- II) をそれぞれ求めた。この各評定の組合せから, 態度の認知的類似性にかかわる4指標が導き出された。Assumed similarity (子-Iと子-IIとの類似・差異の程度); Real similarity (子-Iと母-Iとの類似・差異の程度); Accuracy (子-IIと母-Iとの類似・差異との程度); Satisfaction (母-Iと母-IIとの類似・差異の程度) がそれである。
基本的研究計画としては, 事前テスト-事後テスト統制群法が採られた。被験者は都内私立女子中学校2年2 学級の生徒98名およびその母親であった。無作為に1学級が実験群 (フィードバック群), 他学級が統制群 (非フィードバック群) に割り当てられた。前述の形式に基づく事前テストがまず全被験者に対して施行された。実験群の子どもは, その10日後に, 母-I, 母-IIの反応が各児に対し個別的に提示されるというかたちでのフィ- ドバックを受けた。それから12日後に, 両群の全被験者に対し・内容・形式とも事前のそれとまったく同一の事後テストが母-子それぞれへの一定の教示の後に施行された。
事前テストと事後テストにおけるそれぞれの反応の比較分析の結果, 実験群は統制群に対して, 統計的に有意に, 母-子間の反応Real similarityならびに, 子どもの母親の評価についての認知のAccuracyにおいて, その類似性と正確さとを増大していることが認められた。この結果は, 対人的状況の中での認知的均衡理論に基づいて樹てられた仮説を立証する方向での変化を示すものであった。この他, 子どもの側からの母-子のAssumed similarityもまた実験群において事後に有意な増大がみられたものの, この点に関しては統制群にも同様の結果が得られていたので, 必ずしも明確な結論を出せるものではなかった。しかしながら, このように比較的弱い操作の下でのフィードバックであったにもかかわらず, 全体としては, 期待される方向での効果が見出された。
最後に, 本研究における今後の改善すべき問題点を2・3あげて簡単な考察を試みた。筆者らの他の報告と相いまつて, 本研究の結果は, 親-子関係研究に対して, このような均衡理論の適用可能性を示すものであり, また, 現実の親一子間のよりよい理解のために, さらに子どもの行動の適切な変化のありかたにひとつの示唆を与え得るものと思われる。

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© 日本教育心理学会
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