1992 年 10 巻 3 号 p. 285-294
数ヵ月以上持続していた左半身の運動無視とそれに対応する右中心部の脳波異常が, 抗てんかん薬による治療によって劇的に改善した16歳の女性例を報告した。患者は, 入院時には意識消失発作を日に1~2度示すとともに, 強く促せば所定の運動を行うことができるにもかかわらず, 作業療法や食事など日常生活上, 自発的には左上肢を全く用いず, 歩行の際には失調や麻痺が認められないにもかかわらず, 左下肢が遅れるためパランスを崩すことがあった。フェニトィンの濃度が有効血中濃度に達した時点で意識消失発作は激減し, 同時に運動無視は消失した。意識消失発作に代わって経過の後半で出現してきた発作性の左上肢の異常感覚と, 経過の前半の持続性の運動無視の機序とを, 身体図式の障害や閾値下痙攣といった幾つかの異なった枠組みにおいて試案的に考察した。