2023 年 62 巻 2 号 p. 169-181
COVID-19のパンデミックに直面し,昨今の日本社会では,感染予防行動をとらない人を,一部の人々が自主的に匿名で取り締まる制裁行動がしばしば観察される。こうした感染蔓延を防ぐために規範を強制するという極端な方法は対象者に対するつるし上げに結びつき,社会に深刻な問題をもたらす可能性が大きい。本研究では,このような攻撃が,ヒトを非常に協力的な存在たらしめているメカニズムの一つとして提唱されている強い互恵性に基づき生じている可能性を検証した。ウェブ調査により,強い互恵性を構成するいくつかの側面(利他的罰,利他的報酬など),感染予防規範からの逸脱者及びCOVID-19感染者に対する印象と行動意図,回答者自身が感染予防行動をとっている程度を測定した。その結果,利他的罰の傾向が,感染予防規範逸脱者及びCOVID-19感染者に対する攻撃に対する正の効果をもつというパターンが,回答者自身が感染予防行動を行っている場合にのみみられることが明らかとなった。人々が感染予防規範に従っている状況下では利他的罰の傾向が感染予防規範逸脱者への攻撃を促進する可能性が示唆された。