実験社会心理学研究
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恐怖喚起と説得
防衛的回避仮説の再検討
深田 博己
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1975 年 15 巻 1 号 p. 12-24

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抄録

本研究の目的は, 過去の研究によって否定された恐怖コミュニケーションにおける防衛的回避仮説の妥当性を再検討することであり, 非効果的対処行動を勧告している強恐怖コミュニケーションを信憑性の低い源泉から受け取る場合に, コミュニケーションに対する防衛的回避が生じるであろうと仮定した.
用いた変数は強弱2水準の恐怖, 高低2水準の対処行動の効果性, および高低2水準の源泉の信憑性であった. 被験者は342人の女子大学生であり, 8実験群と1統制群にそれぞれ無作為に割り当てられた. 実験はafter-onlyデザインに基づいて計画され, 変数操作, コミュニケーション提示, ならびに実験後調査はすべてパンフレットによって行なわれた. コミュニケーションは梅毒の脅威を訴え, 対処行動として血液検査を勧告した.
本実験で得られた主な結果は次の通りである.
1. 強恐怖コミュニケーションは弱恐怖コミュニケーションよりも, 効果的対処行動は非効果的対処行動よりも, また, 信憑性の高い源泉は信憑性の低い源泉よりも, それぞれ唱導方向へのより大きい態度変容を生じさせた.
2. コミュニケーションの源泉の信憑性が高い場合には, 対処行動の効果性の高低にかかわらず, 強恐怖コミュニケーションの方が弱恐怖コミュニケーションよりも引き起した態度変容は大であり, 恐怖と態度変容との間にpositiveな関係がみられた.
3. コミュニケーションの源泉の信憑性が低い場合, 対処行動の効果性が高い条件下では, 強恐怖コミュニケーションが弱恐怖コミュニケーションよりも大きい態度変容を生じさせたが, 対処行動の効果性が低い条件下では, 強恐怖コミュニケーションと弱恐怖コミュニケーションが同じ程度の小さい態度変容を生じさせた. 恐怖と態度変容との間の関係からみれば, 前者はpositiveな関係, 後者はneutralな関係であった.
本実験で得られた結果は, 仮説を完全に支持するほどではなかったが, 防衛的回避仮説の成立する条件をある程度解明した. このことは防衛的回避仮説の妥当性を裏付けるものと考える.

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© 日本グループ・ダイナミックス学会
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