実験社会心理学研究
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交渉過程に関する実験的検討I
トラッキングゲームにおけるコミュニケーションの効果
松本 芳之
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1980 年 20 巻 1 号 p. 45-53

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抄録

本研究はDeutschとKraussのトラッキングゲームを用い, 利害対立を含む相互作用場面におけるコミュニケーションの効果を検討したものである.
実験Iでは, ゲームの基本的要件を確認するという目的から, ゲートの有無とコミュニケーションの有無の条件を取りあげた. コミュニケーションは, 各試行終了後メッセージを交換するという方法を取った. ゲートの存在は関係調整の妨げとなることが確認されたと共に, 直接のコミュニケーションは調整を促進させる働きを持つこと, この傾向はゲートの存在する条件で強いという結果を得た. こうしたコミュニケーションの効果は, 相互作用を持続させることで, 被験者の事態の了解に影響する, という点に起因することが示唆された.
そこで実験IIでは, コミュニケーションが有効となり得ないという結果は, 何らかの理由で被験者が実験開始時の場面の理解に固執したことに帰因する, という仮説を検証した. 被験者の場面の理解を規定する方法として課題提示, 具体的には実験に先立つ練習試行の内容を変えることで操作した. 調整条件では, 互いに納得できる合意形態を練習することで, 交渉場面に含まれる協力的要素を強調した. 一方, 対立条件では, 互いに対立する結果相手を妨げるためにそれぞれの勢力に訴えるという交渉場面の競争的要素を強調した. この条件それぞれに対してコミュニケーションの有無の条件 (方法は実験Iと同様) を設け, 交渉過程との関係を検討した.
結果は, 被験者が交渉場面をどう理解するかが交渉過程に大きく影響し, 調整条件で得点が高いことが示された. 一方, コミュニケーションの有無による差は見られなかった.
しかしながら, 他の行動側面を詳しく検討した中で, 従来コミュニケーションが有効性を持ち得ない点で注目されていた条件にあたる, 対立条件では, コミュニケーションの存在が相互作用の展開を両極化させること, すなわち, 容易に調整に至る場合と, 逆にかえって対立が強まる場合とに分かれる傾向があり, その差が増大することが明らかになった. 更に, 相手に依存しない選択手段は, 対立の進行にとって一種の宥和作用を持つことが示唆された.

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© 日本グループ・ダイナミックス学会
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